男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
217 いったい何があったの? ほんとに心配したんだよ
217 いったい何があったの? ほんとに心配したんだよ
「ふと後ろを確認したら、ハルシエルちゃんとクレイユがいないんだもん! 何かあったのかと驚いて、あわてて帰ってきたよ!」
こちらへ駆けよってくるエキューの声に玄関に視線を向ければ、ちょうど入ってくる生徒会メンバー全員の姿が見えた。
「ハルシエル……! よかった、いた……っ!」
険しい顔をしていたディオスが、俺を見てほっと表情を緩める。
「いったい何があったの? ハルシエルちゃんの姿が見えなくて、ほんとに心配したんだよ?」
ソファーへ駆け寄ってきたエキューは、軽く息が上がっている。
きっと俺とクレイユの姿が見えないのに気づいて、リオンハルト達にも報告し、走って戻ってきてくれたんだろう。
そう思うと、申し訳なさにつきりと胸が痛む。
「あのね、その……」
「ハルシエル嬢が、初めて履いてきたサンダルで靴擦れになったんだ。痛そうだったから、手当てをするために散歩を途中で切り上げて帰ってきた。すまなかったな、心配をかけて。一言断っておけばよかったのに、動揺してすっかり失念してしまった」
エキューに詫びるクレイユに、あわてて割って入る。
「違うの! クレイユ君は悪くないの! わたしがうっかり慣れない靴で行ってしまったから……っ! あの、心配をかけて本当にすみませんでした!」
こちらへやってくる面々に、ソファーから立ち上がり、身体を二つに折りたたむようにして頭を下げる。
「そうか……」
安堵とも呆れともつかぬ息を長く吐いたのは、リオンハルトだ。
「事情はわかったよ。クレイユがついているから大丈夫だろうと信じていたが、なにぶん夜だし、土地勘のない場所だ。本当に心配したんだよ? 今度から、何か予想外のトラブルが起こった時は、必ずわたしにも教えてほしい」
「はい。申し訳ありませんでした……」
息を乱すほど走って帰ってきてくれたエキューや、不安に顔を強張らせていたディオスのことが頭をよぎり、申し訳なさに泣きたい気持ちになる。
「まったく! 人騒がせな方ね! せっかくリオンハルト様と優雅にお散歩を楽しんでいたというのに……。あなたのせいで、台無しですわ!」
追い打ちとばかりに、イゼリア嬢の怒りに満ちた声が俺を打ち据える。
ううっ! イゼリア嬢、本当に申し訳ありません……っ!
ですよねっ! 俺もせっかくの夜のお散歩を途中で切り上げなきゃいけなくて、俺もどれほど悲しかったか……っ! そのお気持ち、わかりますっ!
「ほ、本当にすみま……」
あ、ヤパイ。
イゼリア嬢にこんなに厳しく怒られるなんて……。
こらえなきゃってわかっているのに、涙がこぼれそ――、
「まあまあまあ! 心配かけたのは悪かったけど、その辺りでハルちゃんは許してあげてくんない? 今回のハルちゃんの怪我は、半分以上オレの責任だからさ!」
不意に、暗い空気を打ち払うように、ヴェリアスの明るい声が響く。
素早く反応したのは、リオンハルトだった。
「ヴェリアスの責任? それは、いったいどういうことだい?」
碧い瞳が、偽りは許さないとばかりに、鋭くヴェリアスを見据える。
対するヴェリアスはいつも通りのゆる~い笑顔だ。
「いや~。ハルちゃんがかかとを擦りむいたってサンダル、選んだのオレなんだよね~。せっかくの旅行だし、この機会にトータルコーディネートして、いつも以上に可愛いハルちゃんにしようと思って♪ まさか、そのサンダルで靴ずれしちゃうとは思わなくてさ~」
いや~、まいったまいったとヴェリアスが軽い調子で笑う。
「ハルちゃんは素直にオレの言うことを聞いて履いてきただけだからさ♪ イゼリア嬢の気持ちもわかるケド、そんなに怒らないであげてくれる? 代わりにオレを怒ってくれていいからさ♪」
「そ、そんなっ! ヴェリアス様を怒るだなんて……。とんでもないことですわ!」
ヴェリアスに顔をのぞきこまれたイゼリア嬢が、とんでもないと言いたげに首を横に振る。
そうだぞ、ヴェリアス!
イゼリア嬢に叱ってもらうなんて素晴らしいご褒美をお前に譲ったりしてたまるか!
さあどうぞ! さっきは動揺してちょっと涙腺が緩みそうになりましたけど、もう大丈夫です!
イゼリア嬢のごほう……違った、イゼリア嬢のご叱責は、どこまでも
さあっ! どこからでも来てください! ばばーんと受け止めてみせますから!
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