男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
204 何のためにわたしたちが一緒にいると思っているんだ?
204 何のためにわたしたちが一緒にいると思っているんだ?
「ふだん、ずっとかけているから、外さなくてはならないときは、不便極まりないんだ」
俺は眼鏡をかけたことはないけど、姉貴が目が悪くてコンタクトだったから、どんな感じか想像がつかなくもない。
っていうか、寝起きで目をすがめてる姉貴って、本気でにらんでるようにしか見えなくて、ホント怖かったんだよな……。今にも獲物に跳びかかろうとする肉食獣みたいな眼光で。
と、浮き輪を持っていた手に、クレイユの手が重なる。
「今日ほど、己の目が悪いことを悔やんだ日はない。……太陽よりもまぶしく輝くきみの笑顔を、はっきり見ることが叶わないなんて」
「っ!?」
思わず息を飲んで固まる。
ちょっ!? クレイユ! いきなり砂糖をぶっこんでくんな――っ!
俺の心の叫びを無視するかのように、クレイユが浮き輪越しに身を寄せる。
整った面輪が間近に迫り。
「だが、これほど近くなら、愛らしい顔もはっきり見える」
「ちょっと――」
反射的に、一歩後ろに踏み出した足が、引き波にさらわれる。
「ひゃ……っ!?」
「ハルシエル!」
ぐらりとよろめいた俺を支えてくれたのはディオスだった。
「クレイユ! 急にハルシエルを驚かせたら危ないだろう!?」
「驚かせたつもりはありませんが。視力が悪いのですから。仕方がないことでしょう?」
「だが、それにしてもだな……」
浮き輪に入った俺をはさんで、ディオスとクレイユがにらみあう。
が、俺はそれどころじゃない。
「あ――っ!」
突然、大声を上げた俺に、ディオスとクレイユが驚いたように口をつぐむ。
「イゼリア嬢が、もうあんなところに! 早く追いかけないと!」
俺が波と戯れている間に、イゼリア嬢はリオンハルト達に浮き輪を引っ張ってもらい、ずいぶん先に行っていた。もうすぐ水上ハウスへ着きそうだ。
「私達も追いかけましょう!」
じゃぶじゃぶと勢い良く進むが……。
浮き輪があるとはいえ、足が届かない深さまでくると、ちょっと怖くなって、つい立ち止まってしまう。
「大丈夫か?」
またまだ余裕のある長身のディオスが心配そうに尋ねる。
「足がつかないところが怖いのなら、浅瀬で遊んでもいいんだぞ? 無理することはない」
「いいえ!」
ぶんぶんぶんっ、とかぶりを振る。
「水上ハウスなんて初めてですから、行ってみたいです!」
なんてったってあそこにイゼリア嬢がいらっしゃるんだから!
イゼリア嬢がいらっしゃるなら、たとえ火の中水の中! って、今まさに海水の中だけど!
「そうか。なら、ハルシエルはただしっかりと浮き輪を抱きしめておけばいい。あそこまでは、俺とクレイユで連れて行くから」
「えっ!? そんなの悪いですよ! が、頑張って自分で行きます!」
首を横に振って遠慮する。
浮き輪をしっかり持ってたら、少なくとも溺れたりしないだろうし。
待っていてください、イゼリア嬢! 今、そこまで行きますから!
「きみは……。何のためにわたしとディオス先輩が一緒にいると思っているんだ?」
呆れたように吐息したのはクレイユだ。
「きみをあそこまで連れて行くためだ。せっかくじゃんけんまでして決めたというのに……。一方的にお役御免にしないでくれ」
眼鏡がないせいだろうが、睨むようなまなざしでクレイユが告げる。
そっか……。ディオスとクレイユの組み合わせなんて珍しいと思ったけど、じゃんけんで決めたのか……。きっと、二人とも負けたんだろうな、気の毒に……。
俺も、泳げさえすれば、イゼリア嬢の浮き輪を引っ張りたかった……っ!
くそぅ! こんなことなら、旅行前に、泳げるように市民プールに通って特訓しておくんだった……っ!
俺の馬鹿――っ!
だが、嘆いたところで、急に泳げるようになるわけもなく、俺は大人しくディオスとクレイユに連れて行ってもらうことにする。
二人がかりで浮き輪を引っ張ってもらうと、さすがに速い。あれよあれよという間に水上ハウスに着く。
「ありがとうございました」
ディオスとクレイユに丁寧にお礼を言った俺に、
「手を貸すよ、ハルシエルちゃん!」
「引き上げてあげるから、手を出しなよ♪」
と、エキューとヴェリアスがそれぞれ手を差し伸べてくれる。
エキューとヴェリアスなら、迷うまでもない。
「ありがとう、エキュー君!」
女の子みたいに可愛い顔とは裏腹に、意外とがっしりとしたエキューの手を握り、上がろうとする。ディオスとクレイユが、出やすいように浮き輪を押さえて固定してくれた。
が、足場もない揺れる波の上なので、どうにも勝手が違う。
エキューの手を握りしめ、ようやく水上ハウスに上がれたと思った瞬間。
「ひゃっ!?」
「ハルシエルちゃん!?」
濡れた足元に滑って転びかけた俺を、エキューがぐいと抱き寄せる。が、さすがに柔らかな床の上では踏ん張れず――。
俺がエキューにのしかかるような形で、二人そろって倒れ込む。
空気がぱんぱんに詰め込まれた水上ハウスが、衝撃でばうんと揺れた。
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