199 ついに、イゼリア嬢の水着姿を……っ!


 っていうか……。


 周りに集まってきたイケメンどもに素早く視線を走らせる。


 ふだんから運動しているディオスとエキューはともかく、リオンハルトやヴェリアス、運動とはあんまり縁のなさそうなクレイユも、結構いい身体つきをしてるよなぁ……。


 クレイユなんか、もっとがりがりにせてて、貧相な身体つきを想像してたけど、意外と引き締まっているし。


 お前ら、顔だけじゃなくて、身体つきまでイケメンかよっ!?


 けど、男の身体なんか見慣れてるからな!? こちとら、前世では十八年間、男として生きてきたんだ。

 イゼリア嬢やシノさんの水着姿ならともかく、イケメンどもの水着姿なんかで――。


「ハルシエル嬢? どうかしたのかい?」

 黙りこくった俺に、リオンハルトが不思議そうに声をかけてくる。


「い、いえ。なんでもないです」


 とりあえず、この包囲網から早急に脱出しなくては……っ!

 逃げ場を探して辺りを見回した俺の目に飛び込んで来たのは。


「っ!」


 ちょうど階段を降りてきたイゼリア嬢の姿だった。


 腰上丈の短めの薄いグレーのラッシュガードの下に着ている水着は……っ!


 まさかの黒!


 つややかな御髪おぐしと同じ色とはいえ、まさかイゼリア嬢が黒色の水着を選ばれるなんて……っ!


 てっきり、可愛い系の水着かと思っていたのに!


 これはなんて嬉しいサプライズ……っ!


 しかも、ワンピーススタイルじゃなく、ハイネックビキニにパレオ付きとは……っ!

 少女の清らかさと背伸びした大人っぽさが混然一体となって、尊すぎますっ!


 ハイネックが髪を結い上げてあらわになった白い首の細さをいっそう強調し、ささやかなお胸より上に視線を釘づけに……っ!


 もうっ、羽織ったラッシュガードと水着の隙間からのぞく華奢きゃしゃな鎖骨に、どきどきが止まりませんっ!


 魅惑の絶対領域は、ここに存在していたのか……っ!


 ふだん人目にさらされることのないなめらかなお腹はしぼりたてのミルクのように白く、腰に巻いた黒いパレオが細さを引き立てている。


 歩くたび、オーロラのように優雅に揺れる長いパレオと、そこから見える白くしなやかなおみ足……っ!


 ヤバイ! 尊い! 美しい! これぞ地上、いや宇宙最高の美っ!


 感動と喜びのあまり、昇天しちゃいそう……っ!


 ……あ、ほんとに意識が……。


「ハルシエル!?」


 ディオスの驚いた声と同時に、力強い腕に、よろめいた身体をがしりと支えられる。次の瞬間、俺はディオスに横抱きにされていた。


「どうした!? 体調が悪いのか!? 熱中症か!?」


 ビーチパラソルが立つ日陰へと足早に進みながら、ディオスが必死な表情で尋ねてくる。


 いや、違うから! イゼリア嬢のお美しさに気絶しそうになっただけだから!


 っていうか、急にお姫様だっこなんてすんな――っ! 今すぐ下ろせっ!


 イゼリア嬢を! イゼリア嬢の水着を、一分一秒でも長く見つめ続けて、脳裏に焼きつけるんだ……っ!


「ディオス先輩! 下ろしてくださいっ!」


 足をばたつかせて抵抗するが、ディオスの腕は緩まない。それどころか、逃すまいとするかのように、ぎゅっと抱き寄せられる。


 ディオスのたくましい胸板が頬にふれ、ただでさえばくばく高鳴っていた心臓が、ひときわ大きく跳ねる。


 は、放せ――っ! 俺は、男の素肌とふれあってときめく趣味なんざ、断じてなぁ――いっ!


 叫ぼうとしたところで、姉貴がいるビーチパラソルの下に着く。


 日陰になっているビーチベッドに。壊れ物を扱うようにそっと横たえられ。


「……やはり、顔が赤いな」


 心配そうに呟いたディオスの顔が不意に近づき、こつん、と俺の額にディオスの額が当てられる。


 ぎゃ――っ! 近い近い近いっ!


 熱なんてないからっ! これはイゼリア嬢の水着を見てときめいてるだけだから――っ!


「だ、大丈夫です! 熱中症なんかじゃありませんっ!」


 ぎゅっと固く目をつむって、ディオスをぐいぐい押し返す。

 ええいっ! 何でもないから、とっとと離れろ――っ!


「大丈夫、ハルシエルちゃん!? 冷たい飲み物とかとったほうがいいよ!」


 身を離した俺とディオスの間に割り込むように、エキューがぐいとグラスを差し出す。


「あ、ありがとう……」


「エキュー。熱中症なら、甘いジュースより、経口補水液のほうがいいんじゃないか?」


 エキューとは逆側からクレイユが身体を割り込ませる。


「大丈夫かい、ハルシエル嬢。保冷剤を……」

「ハルちゃん、暑いんならラッシュガードを脱ぎなよ?」


 リオンハルトとヴェリアスも心配そうにのぞき込んできた。


 ってゆーか、なんでディオス以外のイケメンどものぞろぞろついてきてるんだよっ!? お前らが壁になったら、イゼリア嬢のお姿が見えねぇだろうが!


 あと姉貴! 気味が悪いくらいにやついてるんじゃねぇっ!

 ディオスが過敏に反応しただけで、姉貴を喜ばせる気なんざ、まったく! 全然! これっぽちもねえからなっ!


「みなさん集まってこなくても大丈夫ですよ! ぴんぴんしてますから! さっきはちょっとふらついただけで……。そう! 慣れない砂浜で足を取られてしまったんです!」


 苦しい言い訳だが、押し通すしかない。


 心配された挙句、ひとりだけ先に部屋に戻されるなんてことになったら……っ!


 イゼリア嬢の水着姿を思う存分愛でられないだろ――っ!


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