177 ようやくお茶会も終了し……。
お茶会が無事に終わり、全員で駐車場へ戻ると、今までいったいどこで盗撮に
「リオンハルト様、皆様。今日は本当に素晴らしいひとときをありがとうございました」
イゼリア嬢がリオンハルト達に礼を述べ、車に乗り込む。ちなみに、イケメンどもは今日は王城に泊まるらしい。
俺はイゼリア嬢の可憐な姿を最後の一瞬まで目に焼きつけようと、
ああっ! 本当に麗しい……っ! 最推しのイゼリア嬢とおそろいのペンを作れるなんて、やっぱり夢を見てるんじゃないだろうか……?
いやっ、同じうさぎのモチーフにしたのをきっかけに、イゼリア嬢にデザインの相談にのってもらったりして、もっと心の距離を縮めるんだ……っ!
そして、いつかイゼリア嬢の親友ポジションに……っ!
固い決意とともに見送ったイゼリア嬢のお車が見えなくなったところで、俺も早々に帰ることにする。
イゼリア嬢が帰った今、イケメンどもばかりが残るこの場にいる理由は、一ミリグラムもねえっ! 一秒も早く脱出しなければ!
「では、私も失礼いたします。リオンハルト先輩、今日は栄誉あるお茶会にお招きいただき、本当にありがとうございました。それに、素敵なドレスまで贈っていただきまして……。他の皆さんも、可愛らしい小物類をお贈りくださったおかげで、安心して
なんてったって、イゼリア嬢に褒めてもらえたし!
「いろいろとお気遣いいただき、本当にありがとうございました」
別れ際だし、と改めて礼を言い、深く頭を下げる。
さっ、これで義務も果たしたし、さっさと帰ろう、と顔を上げた瞬間。
「っ!」
イケメンどもの柔らかな笑顔にぶつかって、思わず息を飲む。
ぱくりっ、と心臓が大きく跳ねた。
ちょ……っ!? 何だよっ!? なんでそろいもそろって、そんな満ち足りた柔らかな笑顔で俺を見つめるんだよっ!?
盛装したイケメンどもが並んで優しい笑みを浮かべる様は、まるでとっておきのイベントスチルのようだ。腐女子じゃない俺でも、思わず見惚れてしまうほど、きらびやかでまばゆい輝きにあふれている。
ま、まぶしくてくらくらしそう……っ!
あっ! 姉貴が「尊い……っ!」って脳内で叫びながら砂になってる……。
尊さのあまり脱魂している姉貴の様子に、少しだけ冷静さを取り戻す。
きっと、背後のシノさんも似たような感じになってるんだろうな……。
「きみに喜んでもらえて、本当に嬉しいよ」
リオンハルトが甘やかな笑みを浮かべる。
「礼を言うのは、こんなに愛らしい姿を見せてもらったわたし達のほうだよ」
ヤバイヤバイ! 俺の防衛本能が退避命令をがなり立てている!
これ以上、リオンハルトの砂糖攻撃を浴びる前に、一刻も早く退避退避――っ!
「いえいえいえっ! ご冗談は結構ですからっ! では、これで失礼いたしますっ!」
三十六計逃げるに如かずっ!
俺はイケメンどもの視線を振り払うように、もう一度、頭を下げると、シノさんがドアを開けてくれるのも待たず、自分で開けて後部座席に乗り込んだ。
ばたん! と力強くドアを閉めた音に我に返ったシノさんも、慌てて運転席に乗り込む。
一瞬、がくん、と揺れたものの、比較的スムーズに車が動き出した。
「はぁ~~っ、つっかれたぁ……」
駐車場を出、イケメンどもの姿が完全に見えなくなった途端、俺はくたっと姿勢を崩して座席にもたれた。
お茶会のメンバーはほぼいつも通りだったとはいえ、慣れない豪華なドレスを着て、初めて訪れる王宮で薔薇園でというお茶会は、精神的にかなりの負担だったらしい。気を抜いた途端、どっと疲労が襲ってくる。
イゼリア嬢とおそろいのペンにするために、かなり気を張ってたしな……。
けど……。
「やったぁ――っ! ついに! ついにイゼリア嬢とおそろいのペンが作れるぜ……っ!」
俺はガッツポーズとともに、イケメンどもの前では出せなかった歓喜の叫びを口にする。
長かった……っ! ペンの存在を知ってからここまで来るのに、いったいどれほどの障害が立ちふさがっていたことか……っ!
けど、ようやくイゼリア嬢とおそろいのペンが作れるようになった今、乗り越えてきた苦難の大きさの分、喜びも大きい気がする……っ!
拳を握りしめて喜びにひたっていた俺は、ふと、大事なことを思い出す。
「そういえばシノさん! 絶対、どこからか盗撮してましたよねっ!? 今日のビデオ、ダビングさせてくださいっ! イケメンどものところはカットでかまいませんから、イゼリア嬢のところだけっ! あっ、観賞用、保存用、観賞用予備、保存用予備と四本お願いしますねっ! テープが擦り切れるまで見るの確定ですからっ!」
携帯電話やスマホが存在しないこの世界では、映像機器もデジカメではなく、テープで録画するタイプのビデオカメラまでしかない。
今日のイゼリア嬢の映像を手に入れるためなら、多少の姉貴の無茶振りにだって応えてやる!
悲壮な決意まで胸に宿し、シノさんに話しかけたが……。
いつも、打てば響くように返ってくるシノさんの返事が、今日に限ってない。
「シノさん? どうしたんですか?」
不思議に思って身を乗り出し、運転席と助手席の間から様子をうかがうと……。
シノさんは、心ここにあらずといった、焦点の定まらない顔つきでハンドルを握っていた。
「ちょっ、シノさん!? どうしたんですか!? どこか調子が悪いんだったら、いったん車を止めて――」
「あら、ハル様。申し訳ございません……」
いま初めて俺の声に気づいたと言いたげに、シノさんがぼんやりした声を出す。
「先ほどのリオンハルト様達の慈愛に満ちた笑顔に、脳内で妄想が爆発してしまいまして……っ! 夢見心地になっておりました」
「シノさん!? いま運転中だからっ! お願いだからしっかり前見て運転して――っ!」
ほう、とハンドルから左手を放し、頬にふれて感嘆の吐息をこぼすシノさんに懇願する。
「申し訳ございません。大丈夫です、安全運転を心がけておりますから。ああっ! でも、あの思いに満ちあふれた笑顔! しかも皆様、いがみ合うどころか、心をひとつに喜ばれて……っ! 尊すぎます……っ! これは今夜はエル様と心ゆくまでじっくりたっぷりしっとり語り合わなくては……っ!」
「シノさん!? シノさ――ん!? お願いだから帰ってきて!? 妄想してないでちゃんと前見て――っ!」
ちょっとでも目を離すとふたたび夢想の世界に飛び立ちそうになるシノさんを現実に戻すべく、俺は家に着くまでひたすら叫び続けた……。
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