男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
172 何としてもイゼリア嬢とおそろいのペンにするぜ大作戦!
172 何としてもイゼリア嬢とおそろいのペンにするぜ大作戦!
もしこの場にいる他のメンバーが、姉貴の頭の中を覗くことができたら、とめどなくあふれまくる腐妄想にドン引きして、敬意も何もかもが、一瞬で地の底へ落ちるに違いない……。
まあ、姉貴の権威が地底へ沈もうが、軽蔑されようが、俺にはどうでもいいけど。
あっ、でも、もし『キラ☆恋』が学園を舞台にした超能力物なら、俺がイケメンどもにこれっぽっちも興味がないってことを、テレパシーで伝えられたかも……っ!
はっ! ということは、俺のこのあふれんばかりの思いもイゼリア嬢に伝わっちゃうっ!? それは嬉しいけど恥ずかしい~っ!
「それで、みんなはどんなデザインの浮き彫りにするつもりなのかな?」
くだらない妄想をしていた俺をよそに、満面の笑みを浮かべた姉貴が、メンバーを見回しながら尋ねる。
「そうですね……」
リオンハルトが考え深げに呟く。
「一般的には、花や動物、幾何学模様などが多いですから、それらの組み合わせになるかと思いますが……」
「ハルちゃんはどーするワケ?」
突然、ヴェリアスが割って入る。
「え? 私ですか?」
ヴェリアスの問いかけに、なぜかイケメンども全員の視線が俺に集中する。
なんだよっ! なんで俺に注目するんだよっ!? 俺のことだから、どうせセンスの悪い組み合わせを口にするとでも思ってんのか!?
が、それは杞憂だと知らしめてやるぜ……っ!
イゼリア嬢とおそろいのペンにするために、考えに考え抜いてきたからなっ!
そういう意味では、最初に振られたのはラッキーかもしれない。
俺はさも思い悩んでいるような様子で、ゆっくりと口を開く。
「動物でしたら、一番好きなのはうさぎなので、うさぎが可愛いなと思うんですけれど……。お花でしたら、鈴蘭が可愛いですよね。ただ、私はペンを作るのは初めてなので、皆さんの意見を参考にして決めたいなと思っているんです……」
ふっふっふ……! これぞ、事前にあれこれと情報を得ているからこそできる作戦っ! イゼリア嬢が一番好きな動物がうさぎなのも、ゴルヴェント家の家紋の花が鈴蘭なのも把握済っ!
イゼリア嬢が選びそうなモチーフを先に口にしておけば真似したわけじゃなくて、偶然、好みが同じでおそろいのデザインになったんだと説明がつく!
我ながらいいアイデアだぜ! 「他の方の意見も参考にしたい」と予防線を張っておいたから、イゼリア嬢の意見を聞いてから変えたとしても不自然じゃないし! 名づけて「偶然を装って何としてもイゼリア嬢とおそろいのペンにするぜ大作戦!」
「イゼリア嬢はどんな浮き彫りになさろうとお考えなんですか? 私以外に女子はイゼリア嬢だけですし……。ぜひとも参考にさせていただきたいですっ!」
熱意を込めてイゼリア嬢のほうへ身を乗り出すと、なぜかイゼリア嬢は悔しげに麗しい面輪をしかめていた。
「イゼリア嬢?」
あれ? 俺、何かイゼリア嬢の気に障るようなことを言ったっけ……?
「あ、垢抜けない庶民であるオルレーヌさんと同じモチーフを考えていたなんて、屈辱ですわ……っ! い、いいえ。でもうさぎが可愛らしいのも、鈴蘭が可憐なのも揺るぎない真実! むしろオルレーヌさんのような者にまで、
小さな声で自分に言い聞かせるように呟いていたイゼリア嬢が、気を取り直すようにこほんと咳払いする。
「そうですわね。うさぎも鈴蘭も、モチーフとしてとても可愛いらしいですわ。センスなんて欠片もないオルレーヌさんにしては珍しく……。本当に珍しくですけれども、いいアイデアですわね」
言葉の端々に微妙に悔しさをにじませながら、イゼリア嬢が俺の案を認めてくれる。
やった――っ! ついに! ついにイゼリア嬢に俺を見とめてもらえる日が来た――っ!
ありがとう、うさぎ! ありがとう、鈴蘭! やっぱり可愛いは正義だぜっ!
「ですが」
心の中で歓喜のサンバを踊り狂っていた俺は、イゼリア嬢の静かな声音に、「は、はいっ!」とあわててぴしりと背筋を伸ばした。
「わたくしでしたら、モチーフは薔薇の花にいたしますわ。とても華やかで、鈴蘭と同じくらい、わたくしの大好きな花ですし、今日のお茶会の思い出にもなりますもの」
イゼリア嬢が今日のお茶会の発案者であるリオンハルトに、にっこりと微笑みかける。
なんて素敵な笑顔……っ!
心のカメラで思いっきり激写しますっ!
ああっ、いつか俺も、イゼリア嬢にこんな笑顔を向けられたい……っ!
けど、薔薇かぁ……。
俺は内心で嘆息しながら、イゼリア嬢に端然と微笑み返しているリオンハルトをちらりと見やる。
薔薇の花も別に嫌いじゃないけど、エリュシフェール国の国花が薔薇ってこともあって、薔薇というと、真っ先にリオンハルトを連想するってのが、ちょっと、いや、かなり微妙なんだが……。
けど、イゼリア嬢が薔薇を選ばれるのでしたら、俺はもちろん薔薇を選びますともっ!
そうだ! 考え方を変えるんだ俺っ!
今日のイゼリア嬢はまさし至高の白薔薇っ! つまり薔薇から連想するのはリオンハルトじゃなくて、イゼリア嬢だと頭に叩き込めばいい!
そうすれば、薔薇のデザインのペンを見るたびに、今日の麗しのイゼリア嬢のお姿を思い描けることに……っ!
えっ? それどう考えても最の高だよなっ!?
よしっ、これはもう、イゼリア嬢とおそろいの薔薇のデザインを選ぶしかねぇ……っ!
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