147 すまない。少し浮かれすぎているようだ
「着いたぞ。ここだ」
「わぁ……っ!」
ディオスの言葉に、俺は思わず歓声を上げた。
エクレール号に二人で乗り、ディオスに連れてきたもらったのは、学園の奥まったところにある花園のひとつだった。
あざやかに咲き誇る花々の間に、一本の小道が通っていて、白い
手綱を引いてエクレール号の歩みを止めたディオスがひらりと地面に降りる。
おっかなびっくり俺も後に続こうとして。
「ひゃっ!?」
俺が降りるより早く、ディオスにふわりと抱き上げられる。
「だ、大丈夫ですっ。自分で降りられますから!」
すとんと地面に下ろしてくれたディオスに抗議すると、「すまない」と素直に謝られた。
「きみが
「た、確かに、ちょっと怖いなー、とは思いましたけど……」
「なら、かまわないだろう? きみは軽くて、抱き上げてもまったく苦ではないし」
かまうよっ! 俺の心臓に滅茶苦茶悪いよっ!
男が男に抱き上げられたって、嬉しくもなんともねぇ――っ! それに……。
「で、でも、恥ずかしすぎます……っ」
真っ赤になっているだろう顔でディオスを見上げると、不意にぎゅっと抱き寄せられた。
「なっ、何するんですかっ!?」
ぐいぐいとディオスを押し返すと、我に返ったようにディオスがあわてて腕をほどく。
「す、すまない。きみが可愛らしすぎて、つい……」
「つい、じゃないですっ! 私の心臓を壊す気ですかっ!?」
大丈夫か、ディオス!? 何か変なモンを食ったりしたんじゃないだろーなっ!? 頼むから、しっかりしてくれっ!
背の高いディオスを睨み上げると、ふはっ、と吹き出された。
「すまない。少し浮かれすぎているようだ。あちらの四阿で落ち着こう。きみのリクエストの『ムル・ア・プロシュール』のガトーショコラを用意しているから」
「わあ! ディオス先輩、ありがとうございます!」
思わず声が弾む。
イゼリア嬢お気に入りのガトーショコラをついに味わえるなんて! 楽しみで仕方がない。
でも、ケーキに浮かれるなんて、ディオスってほんと甘いものが好きなんだな~。
ディオスがさりげなく俺の手を取って歩き出す。
ちょっ! エキューもそうだったけど、ディオスも手をつなぐの自然すぎだろ!? さりげなくエスコートできるなんて、これがイケメンスキルってやつなのか……。
一瞬、ほどこうかと悩んだが、四阿までの小道は短いし、ガトーショコラを用意してもらった恩もあるので、大人しく手を引かれるままについていく。
「本当に可愛らしい場所ですね。こんな庭園があったなんて、知りませんでした」
ディオスが連れて来てくれた庭園は、広さこそこじんまりとしているものの、白やピンクを基調とした花がところ狭しと植えられ、いかにも女子が好みそうなすごく可愛らしい雰囲気だ。
四阿の前には、ピンク色の花をたわわに咲かせたつる薔薇を巻きつかせた白いアーチが建てられていて、まるでおとぎの国に迷い込んだみたいだ。
円形の四阿自体も、
「きみが気に入ってくれたようで、俺も嬉しいよ」
甘く微笑んだディオスと手をつないでアーチをくぐった拍子に、薔薇のいい香りがふわりと鼻をくすぐる。
四阿の中央にはレースのクロスがかかった小さめのテーブルと二脚の椅子が置かれていた。テーブルの上にあるのは、何種類もの花があしらわれた小さなバスケットだけだ。
「すぐにガトーショコラと紅茶を持ってこさせるよ。ここで、のんびりティータイムにしよう」
紳士なディオスが、俺のために椅子を引いてくれながら言う。
ディオスがテーブルの向こうに座ったのを見計らったように庭園の向こうに人影が現れる。
銀製の盆を手に、足音ひとつなくこちらへやって来るのは。
やっぱりシノさんか――っ! うんっ、そうだろうと思ってた! どれだけかぶりつきで見るつもりだよ、この人!
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