男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
125 庶民の家に王子様をおもてなしできる部屋はありませんっ!
125 庶民の家に王子様をおもてなしできる部屋はありませんっ!
もしかしてイゼリア嬢、俺の家の場所を知ってくれていた……っ!? 嬉しさにどきんと心臓が跳ねる。
イゼリア嬢がつんと形のよい鼻を上げた。
「我が家の運転手は優秀ですもの。送迎する機会が限りなく低くとも、可能性のある方の屋敷は、ひと通り覚えておりますわ。というか……」
イゼリア嬢がいぶかしげに眉をひそめて、俺の家を見る。
きゃ――っ! イゼリア嬢に見られるなんて、なんかすっごいどきどきする――っ!
あっ、俺の部屋は、二階の右端の薄ピンクのカーテンがかかってる部屋です! イゼリア嬢さえよろしければ、今すぐお招きいたしますっ!
わくわくと言葉を待つ俺に、不思議そうな面持ちのままイゼリア嬢が口を開く。
「こちら、オルレーヌ家の別宅か何かですの?」
はい?
「いえ、別宅ではなく、ふつうに自宅ですけれど……?」
俺の言葉に、イゼリア嬢が「まあ!」と、目を丸くする。
イゼリア嬢のレアな驚き顔、いただきましたっ!
「あまりにもこじんまりとして質素な建物ですから、わたくし、てっきり別宅か何かだと思いましたわ。本当に、この家でご家族全員が暮らしてらっしゃるの? ぱっと見たところ、我が家のダンスホールとさほど変わらない大きさのようですけれど……?」
イゼリア嬢がきょとんと小首をかしげる。
純粋に不思議に思っている様子は、いつもクールなイゼリア嬢には珍しい、あどけない愛らしさに満ちていて、思わず顔がにやけそうになるほどだが……。
あの、イゼリア嬢。ふつーの庶民の家の大きさは、こんなもんです……。むしろ、一応、爵位を持っているハルシエルの家は、庶民の家の中でも立派な部類なんですけど……。
ってゆーか、イゼリア嬢のお屋敷はどんだけ広いんだ!? ううっ、一度でいいから、お招きされてみたいぜ……っ!
「ねーねー、ハルちゃんの部屋はドコなの? お招きしてくれたりはしないワケ?」
しげしげと俺の家を見ながら、ヴェリアスが弾んだ声で尋ねてくる。
はあっ!? イゼリア嬢ならともかく、お前なんか絶対に家に入れるかっ!
「とんでもないです! 庶民の質素な家は、ヴェリアス先輩をおもてなしできるような環境ではありませんから」
「え~っ、オレにはそんな心配は不要だよ♪ ハルちゃんさえいてくれたら、どこでだって、楽しく過ごせる自信があるからさ♪」
そんな自信いらねーよっ! ゴミ箱にでも捨てとけっ!
ヴェリアスの言葉に、なぜかリオンハルトがにこやかな笑顔で頷く。
「そうだね。ハルシエル嬢がいてくれれば、どんなところでも心楽しいに違いない。こんなに魅力的なハルシエル嬢を育んだ場所を、わたしも一度、見てみたいものだね」
リオンハルトが甘い笑みを浮かべて俺を見る。
俺は、頬が熱くなるのと、背筋に冷や汗が流れるのを同時に感じるという、珍しい経験をした。 って、そんなのしたくねーよっ!
「なっ、何をおっしゃるんですか!? リオンハルト先輩は、もう少しご自身のお立場をご考慮してくださいっ! 突然、第二王子様が我が家を訪問なんてしたら、驚愕のあまり、両親が倒れてしまいます! というか、質素な我が家には、第二王子様をもてなせる場所も人も、お茶もお菓子もありませんっ!」
間違っても訪問なんてさせてたまるかと、言い募る。
「そうですわ、リオンハルト様!」
イゼリア嬢も咎めるようにアイスブルーの瞳をすがめる。
「庶民の暮らしぶりを知ろうとなさるリオンハルト様のお心は素晴らしいですが、突然の訪問は感心できませんわ。ましてや、同じ生徒会役員とはいえ、女生徒の家ですもの。よからぬ
おーっほっほ! とイゼリア嬢が高笑いする。俺は感嘆の思いで聞いていた。
さすがです、イゼリア嬢! リオンハルトを
リオンハルトが仕方なさそうに吐息する。
「確かに、イゼリア嬢の言うことにも一理あるね。わたしのせいで、ハルシエル嬢に迷惑をかけては忍びない。わたしはハルシエル嬢さえいてくれれば、場所になどこだわらないが……。オルレーヌ男爵に負担をかけては心苦しいからね」
そうですそうです! 我が家なんて第二王子様をお招きできる場所じゃありませんから!
あっ、もちろんイゼリア嬢だけは別格ですよ! イゼリア嬢なら、年中無休でいつでも大歓迎ですっ!
イゼリア嬢と別れるのは身が二つに裂かれるくらい名残惜しいが、このままここにいたら、次はどんな無茶ぶりがリオンハルトとヴェリアスから飛び出すか、わかったものじゃない。
「イゼリア嬢、今日は素晴らしいお時間を本当にありがとうございました! イゼリア嬢の魅力の一端にふれることができて、とても嬉しかったです! ……あ、リオンハルト先輩とヴェリアス先輩も、相談に乗ってくださってありがとうございました」
イゼリア嬢に深々と礼を述べ、次いでリオンハルトとヴェリアスにも軽く頭を下げておく。
イゼリア嬢との二人っきりの時間を邪魔したのは万死に値する大罪だが、センスがいい二人がいてくれたおかげで、良いペンができそうなのも確かだ。悔しいが、そこは認めざるを得ない。
「わたしがきみの役に立てたのなら嬉しいよ」
リオンハルトがとろけるような甘い笑みを浮かべる。
ちょっ! 最後の最後で砂糖をぶっこんでくんな――っ!
不意打ちを食らって、思わず頬が熱くなる。
「まだデザインは確定してないし、相談したいことがあったら、何でも乗るからね。明後日からは夏休みに入るけど、ハルちゃんのお呼びとあれば、すぐに駆けつけるからさ♪ 遠慮なく相談してよ♪」
「いえ、大丈夫です。リオンハルト先輩とヴェリアス先輩には、これ以上、ご迷惑をかけないようにしますから」
にこやかに告げるヴェリアスにすげなく返す。
そっか……。明後日は終業式かぁ……。
イケメン達に会う機会が減るのは素直に嬉しいけど……。
ただでさえ少ないイゼリア嬢と会える機会がさらに少なくなるうえに、ディオスとエキューとのごほうびデートだってあるんだよなぁ……。
王宮でのお茶会にも行かなきゃいけないことになったし……。
楽しみといえば、夏休み後半に予定されている生徒会役員全員での旅行くらいだ。今日はイゼリア嬢についていろいろ新情報をゲットできたし、旅行では、イゼリア嬢ともっと親密になれるように頑張るんだ!
それを楽しみに夏休み前半を乗り切れ、俺っ!
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