90 今すぐデートをやめろって説得してくれてかまわないんだぞ!?


 だが、エキューとデートをしたくないなんて言ったら、余計な混乱を招くのは目に見えている。


 これ以上、クレイユを刺激して面倒なことにならないよう、俺は考え考え口を開いた。


「イゼリア嬢もおっしゃっていたように、私が選ばれたことに疑義があるというのなら、取りやめることも、生徒の皆さんを納得させるひとつの方法でしょう。私一人の要望でごほうびを取りやめにできるとは思えませんが、生徒会役員であるクレイユくんがも口添えしてくれるなら、あるいは変えられるかもしれません。そのためには、クレイユ君が、私はふさわしくないと思えば、はっきりエキュー君に伝えてもらった方が助かります」


 何なら、今からエキューを説得してくれてかまわないんだぞ!? ハルシエルとのデートなんてやめろって!


 っていうか、いい加減、解放してくれねーかな……。図書館に行く時間がなくなっちまうだろ!?


 祈るような気持ちでクレイユを見つめると、「なるほど」とクレイユが頷いた。


 よし! もう話は済んだな!? 行っていいか!?

 俺が内心じりじりしているのを知ってか知らずか、クレイユはゆったりと口を開く。


「きみが真面目に考えてくれているのはよいことだ。少し見直したよ。ならば、こちらもきみの誠意に応えて、しっかりときみを見極めさせてもらおう」


 いや、いいから! 応えてくれなくていいからっ!


 気に入らないって感情論でデートをやめるようにエキューを説得してくれたら俺としては十分だからっ!


 俺はすこぶる生真面目な表情でこちらを見つめるクレイユをそっとうかがった。


 なんていうかコイツ……。ほんと真面目なんだよなぁ。お堅いっていうか、融通が利かないっていうか。

 同じ生徒会のメンバーとしては、きっちり仕事をこなしてくれるところはすごく助かるんだけど……。


 エキューが絡むと、ここまで面倒くさくなるとは、予想外だったぜ……。


 さて、どうしたものかと、俺は素早く考えを巡らせる。


 エキューにだけは優しく、自分にも他の者にも厳しいクレイユのことだ。

 ふだんの俺を見ていれば、すぐにエキューのデート相手にふさわしくないと気づくだろう。


 クレイユがエキューの説得をしてくれれば助かる。が……。


 ひとつ懸念事項があるとすれば、クレイユも攻略対象キャラの一人だということだ。

 この好感度の低さを考えると、クレイユとのフラグが立つなんてことはないだろうけど、ディオスとエキューにごほうびの相手に選ばれたのも予想外だったからな……。


 可能な限り、イケメンどもには近づかない方が無難に決まってるっ!


「特別なことはしなくていいんじゃないですか? 生徒会の活動でも会うわけですし、飾らないふだんの姿を見てもらった方がいいと思うんですけれど……」


 間違ってもクレイユと二人きりになって、イベントなんか起こしてたまるかっ!


 俺の言葉に、クレイユが残念そうに眉を寄せる。


「そうか……。期末テストも近いことだし、エキューとイゼリア嬢も誘って勉強会をと思ったんだが……」


「勉強は学生の本分ですもんね! テスト勉強は絶対にしておかないとっ! 勉強会はぜひ開催しましょうっ!」


 イゼリア嬢も誘ってくれるなんて……っ! クレイユ、お前ほんといいヤツだなっ! 今度こそ見直したぜっ!


 俺の食いつきっぷりに、クレイユが感心したように目をみはった。


「ずいぶんな意気込みだな。やはり、わたしと同点一位を獲るだけあって、それだけ熱心に勉学に打ち込んでいるということか……。その姿勢は、わたしも見習わなくてはな」


 クレイユが珍しく柔らかに微笑む。

 瞬間、なぜかどきりと心臓が跳ねた。頬がかぁっと熱を持つ。


 ちょっ! エキューにしか見せない笑顔を急に俺に向けんなっ! 心臓に悪いだろ――っ!


「と、とにかくっ! これでお話は終わりですよね!? 私、もう失礼しますねっ」


 今から行けば、ぎりぎり図書館へ駆け込めるはずだ。

 俺はクレイユが頷いた瞬間、そそくさと駆けだす。


 木陰から通路に飛び出し、駆け足で図書館へ向かおうとして。


「ハルシエル嬢!」

 急に、後ろから声をかけられたかと思うと、強く腕を引かれる。


「ひゃっ!?」


 よろめいた身体が、とすりと誰かにぶつかった。

 ふわりと香る華やかなコロンの香り。


「す、すまないっ。探していたきみを見つけて、つい……」


 俺を抱きとめたリオンハルトがあわてた様子でぱっと手を放す。俺はあわてて距離を取って振り向いた。


 俺を探していたというリオンハルトは珍しく息を荒げている。


 っていうか、探してたって何だ? 俺はもう、イケメンどもと絡むのはうんざりなんだよっ!

 頼むから図書館に行かせてくれ――っ!

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