男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
69 さすがに生徒会役員同士で暴力沙汰はマズイだろ!?
69 さすがに生徒会役員同士で暴力沙汰はマズイだろ!?
額と額がふれそうな距離で、ディオスとヴェリアスが睨み合う。
ディオスの濃い緑の瞳には、
このまま、ヴェリアスを殴り飛ばすんじゃないかと、気が気でない。
「ディオス先輩!?」
ど、どうしたらいいんだ、これ……っ!?
いや、心情としてはヴェリアスなんか殴り飛ばしてほしいけど、さすがに応援合戦の直後に生徒会役員同士で暴力沙汰はマズイだろ……っ!
「……で? ディオスはいつまでハルちゃんの手を握ってるワケ?」
ディオスの目から視線をそらさぬまま、ヴェリアスが淡々と問う。
「は?」
先に視線をそらしたのはディオスだった。
自分の左手を見下ろし――、まだ俺と手をつないだままだと気づいた途端、あわてた様子でぱっと手を放す。
「す、すまんっ、ハルシエル! つい……っ」
さっきまで宿っていた激しい怒りが嘘のように、ディオスの視線が不安げに揺れ動く。
「い、いえ……」
俺はふるりと首を横に振る。
ずっとディオスに握られていた手は、まだディオスの手の熱が残っているかのようにあたたかい。
「ついでに、オレの首元も放してくれたら嬉しいんだケド?」
ディオスに襟首を掴まれたままのヴェリアスが、からかうように唇を吊り上げた。
「ふざけるなっ!」
ディオスが険しいまなざしでヴェリアスを振り返る。
「まだ話は終わっていない!」
「え〜っ、でもヤッちゃったものはもう、仕方がないじゃん♪ 全校生徒がバッチリ証人なんだし♪」
サイテーだっ! コイツ、確信犯でやりやがったっ!
ぷつん、と俺の中でナニかがキレる音がする。
「お前っ! ハルシエルの気持ちを――」
「ディオス先輩」
「ハルちゃん、助けてっ! ディオスってばヒドくないっ!? 自分は主役だからって堂々とハルちゃんを抱きしめてるのにさっ! オレはダメってズルくない!? だからオレも――」
ヴェリアスが味方を得たとばかりに喜色に満ちた声を上げる。
「ヴェリアス先輩は黙っててください」
ぴしゃりと告げると、珍しくヴェリアスが素直に黙り込んだ。
「ディオス先輩。怒ってくださるのは嬉しいですが、被害を受けたのは私ですよね? なので――。ヴェリアス先輩を殴るんでしたら、自分自身で殴ります!」
ディオスを見上げてきっぱり告げると、濃い緑の瞳が驚いたように見開かれた。
ヴェリアスがあわてた様子で声を上げる。
「えっ!? ハルちゃんマジ? そこは「ディオス先輩っ、やめてください! 私、ほんとはイヤなんかじゃ……っ」とか照れながら告白するところじゃナイ?」
「妄言を口にするのも、時と場所を考えくださいね?」
ヴェリアスを見もせず冷ややかに告げる。
「あの、ハルシエルちゃん。……ほんとにヴェリアス先輩を殴る、気……?」
エキューが愛らしい顔を強張らせて、おずおずと口を開く。
俺はきっぱりと頷いた。
「だって、ディオス先輩に代わりに殴ってもらうわけにはいかないでしょう? 私のせいで、花組のツートップをギスギスさせるわけにはいきませんし、ディオス先輩にも申し訳ないですし……」
「いや、ハルシエル。俺は……」
ディオスが何やら言いかけるのを、かぶりを振って押し留める。
「何より、これは私の問題ですから。自分のことは自分で始末をつけます」
決意をこめて告げると、ディオスが小さく息を飲んだ。
「……きみには、敵わないな」
苦笑いとともに低い声で呟いたディオスが、ヴェリアスの襟首から手を放し、一歩引き下がる。
代わりに、俺がヴェリアスの正面に立った。
「え……。ハルちゃん、マジ?」
「もちろん」
乱れた襟元をそのままに、腰が引けた様子で立つヴェリアスに即答する。
「そう見せかけておいて、オレの胸に飛び込んでくるなんて大逆転は――」
「もう、寸劇は終わりましたよ?」
俺はにっこり微笑んで告げると、おもむろに右手を上げ、拳を握りしめた。
「午後の競技も始まっちゃいますから、さっきの暴挙は
「あ、ああ……」
「ハルシエルちゃんが、それでいいなら……」
見回すと、ディオスとエキューがぎこちなく頷く。
俺は正面のヴェリアスに向き直ると、にこやかに宣言した。
「顔は許してさしあげます」
「うわぁーい、ハルちゃんやっさし〜♪」
微妙に引きつった表情で、それでもなおヴェリアスが軽口を叩く。
俺は答えず、軽く右足を引いた。
前世でも、人を殴ったりなんか、子どもの頃のケンカを除いて、経験なんてあるわけがない。
ましてや、今の俺の身体はハルシエルだ。
ヴェリアスにダメージを与えるどころか、下手したらこちらの手を痛めるかもしれない。
が、コイツだけは俺が自分の手で殴るっ!
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