第36話


 館林先生の言葉に僕達は揺られて車で運ばれている。

何故かそう思いたくなった。

本来なら僕達は昨日のあの場所ですべてを終わりにして、もうあの向日葵の屋敷に行くこともできずにいるはずだったからだ。それを館林先生の言葉が繋いでいると、皆が言葉に出さないでいるけど感じている。言葉と言う長い縄跳びの上を僕達は一緒にはしゃぎながら飛んでいる、皆の表情に何となくその思いが出ている。

だからかもしれないけど時折聞こえるラジオ放送に耳を傾けることなく、僕達は揺れる車内で昨日怒られたことがまるで嘘のように陽気にはしゃいでいる。はしゃぐ僕達の声の塊のように車が夏の道を進んでいく。

勝幸の父親が溜息交じりにハンドルを握りながら、しかしどこか微笑を浮かべて少しラジオの音量を上げた。

音量が上げるにつれラジオから歌が流れて来た。

それにツトムが不意に笑いを止めて、耳を傾けて僕達に言った。

「これ?ブースターズじゃね?ほらブースターズの“サンフラワー”」

「ブースターズ?」

 勝彦が言う。

「何それ?」

 僕はツトムを見た。

「うん、皆知らん?これ、今人気のバンドの曲。少し前にさ、爺ちゃんが魚籠編みながらラジオ聞いててな。そこでこの曲が流れきて聴いていたんだ。この曲・・すっげぇ、良い曲だった」

「ふーーん」

 ツトムの言葉に長い相槌を打つ。

「じゃ少し聴いてみっか?」

 勝幸の言葉に頷いて、皆が座席にもたれて流れて来た曲を聞き始めた。

空に大きな雲が見えた。

その白い雲に歌詞がかかり、僕達の頭上を流れてゆく。



“♬

空に 月が昇り 

星が 流れて消えた

OH daring 今は まだ 夢中な子供のままで

あとすこし 夢を 見させて


君は 花を抱いて 

何も 言わずに消えた

OH daring 今も まだ 夢中な子供のままで

あの夏の 夢を 見ている


何が あっても 時は 流れる

それだけ 僕らが  大人になった

夢の続きは  あの日の日記の中

SO daring 二人で 夢を描こう 


あのながい夏の小路をあるく   

僕の側に君はいつもいてくれた


OH daring 今は まだ 夢中な子供のままで

あとすこし 夢を 見させて

OH daring 今も まだ 夢中な子供のままで

あの夏の 夢を 見ている




曲が終わると僕が呟いた。

「ツトムが言うように良い曲だね、これ。なんかすごくいい」

少し間を置いてツトムが言う。

「良いじゃろ?ナッちゃん」

 うんと僕が頷くと勝彦が同じように頷く。

「良い曲じゃ」

 勝幸が呟いて力強く言った。

すると何を思ったのか突然言った。

「よし、俺中学に行ったらバンドしてロックスターになる!!それでこんないい曲・・沢山歌ってやる!!」

「ええ!!」

 僕達が一斉に驚いて声を上げた。

「本気かガッチ?」

 ツトムが言う。

「おう、本気じゃ。今決めたんじゃ!!」

 言うや、車の窓を開けて急に空へ向かって歌いだした。

 それを見て皆唖然とした。

 ツトムが屈みこむと僕と勝彦に小声で言った。

「ガッチ・・・ヒナちゃんに恋でもしてるじゃろか・・それで少し頭がおかしくなったちゃない?」

僕は(そうかもしれない)と少しほくそ笑んだ。

勝彦が勝幸の頭を見て屈みこんで小さく僕等に言う。

「お兄じゃ無理じゃって・・だって・・だってさ・・」

 より小さく小声で

「いがぐり頭じゃもん・・ロックスターみたいに髪が長く生えるか保証なんてないし・・」

 そう言うと、僕達は一人空に向かって歌う勝幸を見ながら、深く頷いた。

 すると勝幸の父親が息子に怒声交じりに言った。

「うるさい!!勝幸!!ラジオの声が全く聞こえんじゃろが!!早よ、下手な歌止めて、窓を閉めろ!!」

 父親の声に舌打ちして勝幸が窓を閉めると、僕達に向き直り二ヒヒと声を立てて笑った。

 僕もツトムも勝彦も皆顔を合わせ(どうしようもないな)と、心で思って互いに顔を見合わせた。

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