第14話

先週の日曜日、突然、ツトムの母親が家へやって来た。

 僕は外に遊びに行く際にツトムの母親に挨拶した。二重瞼のツトムによく似た瞳が僕を見て深くお辞儀をした。

すると僕の手を握りながら言った。

「ナッちゃん、ツトムといつまでも友達でいてね。おばさん、実は此処をもう少ししたら離れて、福岡に行くのよ」

 僕は少しえっとした表情をした。

「ツトムは・・知ってるの?その事?」

 母親は首を横に振った。

「御免ね、このことはツトムに黙っておいてくれる?いずれおばさんのほうからツトムに話をするから。だから今日はお別れを言うためにナッちゃんのお母さんに会いに来たのよ」

 そう言うとツトムの母親は僕に小さな封筒を渡した。

「これ・・ツトムに会ったら渡してくれる?」

 僕は受けとった封筒を開けた。

 中に千円が入っていた。

「これ・・」

 僕は言った。

「本当は直接ツトムに渡したいのだけど・・会えない事情があってね」

 母親は寂しそうに微笑した。

 ツトムの両親が離婚したのを知ったのは一年前だった。その原因を僕は知らない。しかし一度だけ、母親に聞いたことがある。

 母親は

「大人には色んな事情があるのよ」

 とだけ言った。

「それは決してやましい理由じゃないの」

 僕はその事に眉をひそめた。それは僕も噂で最近知ったことだったからだ。それを母親は暗に僕に否定して言ったに違いなかった。

「事情を知らない人が言う、噂よ」

 母親の言葉の後に、それ以上僕は何も聞かなかった。

 少し物思いから覚める様に僕はツトムの母親を見た。

僕もその微笑の裏に潜む事情がよくわかるので黙ってズボンのポケットに押し込んだ。

「分かった。ツトムに渡しとくよ」

 そう言うとツトムの母親は頭を下げて行った。

「ありがとう、ナッちゃん」

 頭を上げると僕を見た。その瞳に少し涙が浮かんでいた。


「ナッちゃん、どうした?」

 考え込む僕を見てツトムが言った。

 慌てて僕は言った。

「いや、何でもないんだ」

「そうか」

「あ、だけどさ。あとで二人っきりになったらちょっと渡したいものがあるから、いいかな?」

 僕はズボンのポケットに手を伸ばして言った。 

「うん、いいよ。でも何だい?ナッちゃん?」

「まぁ、それはあとでってことで」

 そう言って、自転車を強く漕ぎ出した時、先頭を行く勝幸の頭に何かが当たって割れた音がした。

 それで二人の自転車が止まった。急いで僕とツトムは二人の側まで行った。

 勝幸が頭に当たったものを手に取って、僕に見せた。

「これは・・」

 僕はそれを手に取った。

 それは屋台とかでよく見る金魚すくいの透明な袋だった。地面を見ると大きな水が散らばっているのが見えた。

僕達が立ち止まった場所は通学路の坂の所だった。

ばーん!!

激しい音がして僕達の側で何かが地面に落ちて破裂した。

「うわぁ!」

 勝彦が叫ぶ。

 僕は地面に落ちて破裂したものを見た。それは先程勝幸の頭にぶつかったものと同じ物だった。

「水の入った袋じゃないか。誰だ?こんなことする奴は!」

僕はそう言ってはっとした。

 皆も僕がはっとした意味が分かったようだった。この山川でこんないたずらをする奴は奴らしかいない。

 僕達四人は顔を見合わせていると、上の方で笑う声がした。僕達は懸命に声の聞こえる場所を探そうとしていると、木造の二階建てのベランダのある家からその声が聞こえるのがわかった。

「あれじゃ」

 勝幸が指を指した。

 僕達は四人が一斉にそちらを見た。すると、そこに二人の男の兄弟の姿が見えた。

 それはゲン太兄弟の姿だった。

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