第52話ローガン王視点

「ルーク殿下。

 本気でオリビア陛下に悪いと思っておられるのなら、素直に謝らなければいけませんし、二度と人を殺してはいけません。

 それに何度も申し上げているように、口だけでなく態度で示さないと、オリビア陛下には伝わりません。

 伝わらない状態で無理にオリビア陛下に会おうされると、またオリビア陛下が壊れてしまわれますぞ!」


 ジェイデンがルーク殿を説得している。

 いつ見ていても恐怖で全身が震えてしまう。

 ジェイデンはよく震える事もなく、声も出せるモノだ。

 例え声が出たとしても、余なら震えで誰にも理解できない声になっていただろう。

 これが胆力の差だと言われればそれだけだが、正直自分が情けなくなる。


「殺さないって言っているだろ!

 約束するって言っているだろ!

 だからジェイデンを殺していないし、変化もさせてないじゃないか!

 それをお姉ちゃんに言えばいいじゃないか!」


「それだけでは信じてもらえないから、こうして命を賭けて話しているのです。

 ルーク殿下には怖くない事なのでしょうが、御優しいオリビア陛下には、目の前で人が弾け飛び、血と肉片となって自分に跳んでくるというのは、心が壊れるほどの恐怖なのですよ!

 お忘れになられたのですか!」


「忘れてないよ!

 忘れてないからこうして頼んでるじゃないか!

 我慢してるじゃないか!

 なんでも言う事聞くから、助けてよ!」


「なんでも言う事を聞くと言われながら、なにも言う通りにしてくださらないではありませんか!

 オリビア陛下が安心して会えるように、服装を王族に相応しいモノに変えていただき、人間の女性を妻を迎え、その女性と一緒に来ていただきたいと、何度も何度も申し上げているではありませんか」


 ジェイデンは命知らずとしか言いようがない。

 ここ二年、何度も何度もこれと同じ現場に立ち会っているが、その度に歯の根が合わないほど激しく震えてしまう。

 脚もガクガク震えている。

 血が頭から引いて、この場で昏倒しそうになる。


 頭では、もうルークが怒り狂って魔法攻撃しないというのは理解している。

 この二年間で何十、いや、何百と繰り返された言い争いだ。

 今更ルークが怒り狂わないのは分かっているのだ。

 分かっているのだが、それでも恐ろしいモノは恐ろしいのだ。


「それは嫌だって言ったよ。

 それ以外の事を考えてよ!」


「それ以外の方法など思いつかないと何度も申し上げているでしょう。

 なにも本心から人間の女性を愛せと言っている訳ではありません。 

 オリビア陛下が安心出来るように、形だけ整えてくださいと、そう申し上げているのです。

 それもできないと申されて、それでよくオリビア陛下を大切だと口にされますね」


 もうやめてくれ、ジェイデン。

 もう余の心の方がもたない!

 

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