第49話ローガン王視点

 怖かったが、逃げる方法などないし、既に何度もルークには恐ろしい目にあわされていたので、多少は免疫ができていて、公衆の面前で失禁脱糞するような恥ずかしい姿を見せずに済んだ。

 それにジェイデンがしてくれたのが大きい。

 ジェイデンがいる安心感は絶大で、何者にもかえがたい。


 何より驚いたのは、あのルークが普通の子供のように怯えていた。

 オリビアに嫌われた事に絶望し、オリビアが死んでしまうかもしれない事に、とてつもなく恐れ怯え慌てていた。


 余にはルークの気持ちは分からない。

 分かりたくもない。

 だが、オリビアの気持ちは少しだけ分かる。

 ルークが恐ろしくて恐ろしくて、失禁脱糞してしまったのは同じだ。

 悪夢にうなされ眠れなくなるのも分かる。

 家族にどうしようもない人殺しがいる気持ちも分かる。


 だが分かってやれないことも多い。

 ルークのような弟を持つ者の気持ちは分からない。

 絶対に勝ち目のない強大な殺戮者に愛され、全ての人間に殺戮者からの助けを求められ、助けてやれなかった絶望を分かってやる事などできない。


 だが、わずかだが、手助けしてやれる事もある。

 男だから、侍女の力を借りなければいけないが、これでも現役の王だ。

 家臣に命令する事にはなれている。

 ルークと違って、王宮や貴族の常識は理解している。

 庶民の常識には疎いが、ルークが幽閉してオリビアの世話をさせようとしているのは貴族に仕える侍女だから、余の方がルークより正しく扱える。


 それに、ルークのように怖がられたりしない。

 ルークが幽閉した全権王族大使や随行員は、とにかくルークが怖いのだ。

 ルークが近づくだけで半狂乱と成り、何かをさせる事など不可能だ。

 だから余とジェイデンで細かく指示をだし、オリビアの世話をさせた。


 だが余も命が惜しい。

 ここに来て、ルークが人殺しを断行したのを知った。

 ついにオリビアの制止を振り切って、殺人と言う禁忌を越えたのを知った。

 ルークを凶行に追い込んだ、コレクト王国のミアヒス王への怒りで、頭が沸騰してしまった!

 ルークを唯一抑える事ができたオリビアを囮にして、ルークを殺そうとする愚行に、怒りと絶望で眼の前が真っ暗になった。


「ルーク。

 お姉ちゃんを助けるためにも、お姉ちゃんを殺そうとしたコレクト王国のミアヒス王に制裁をするためにも、他の国に使者を送りたい。

 余はこの場所に残るから、だれか使者を貸してくれないか?」


「……制裁してもお姉ちゃんに嫌われない?」


「ルークが制裁をするんじゃないから大丈夫だよ。

 余がオリビアを殺そうとしたミアヒス王を許せないと思っているんだ。

 他にもミアヒス王に腹を立てている王がいると思う。

 そんな国に使者を送って、ミアヒス王に罰を与えよう」


「……でも、お姉ちゃんが起きた時のために、お姉ちゃんが壊れる前と一緒にしておきたい。

 魔境から新しい半人間を連れてくるから、半人間でもいい?」

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