第2章

第28話

 少し心配していましたが、近隣諸国の侵攻はありませんでした。

 余程ルークの事が怖いのでしょう。

 まあそれも当然です。

 ベネット王国のグレイソン王と将兵が豚に変化させられ、国が大混乱したのは僅か一ケ月前の事なのですから。


「お姉ちゃん、なでなで続けてよ」


「ごめんなさいね。

 ちょっと考え事をしていたのよ」


 ルークは相変わらずです。

 私に甘える事が一番で、他の事はどうでもいいのです。

 ルークほど強ければ、他人が何を考えていようと、何の心配もないのでしょう。

 でも今のルークには、護らなければいけないモノがあります。

 自分がやった事の責任は、自分がとらなければいけないのです。


「ルーク、そろそろ狩りに行かないといけませんよ。

 あの子達を助けてきたのはルークでしょ。

 助けたのなら、最後まで責任を持たないといけません。

 その子達は弱いのだから、ルークに食糧を用意する責任があるのよ」


「はい、お姉ちゃん。

 お姉ちゃんが僕を助けてくれたみたいに、僕もあの子達を助けるよ。

 僕偉い?

 僕優しい?

 お姉ちゃん褒めてくれる?」


「ええ、たくさん褒めてあげるわ。

 ルークはとても偉いわね」


 ルークは大魔境で弱っている半人間を助けてきました。

 ケガを治し、狩ってきた魔獣を食糧として与えました。

 僅か一ケ月で、城には多くの半人間が暮らすようになりました。

 難攻不落と言える城は、彼らにとって安住の地なのでしょう。

 半分獣である彼らは、野生の本能が強いのでしょう。

 ルークをボスとして序列が出来上がり、直ぐに城内の秩序が整いました。


 今問題があるとすれば、陳情に訪れるトーレス王家の民です。

 多くは冒険者や狩人です。

 元々は大魔境の外縁部に入って生活の糧を得ていたのですが、ルークが大魔境の王となった事で、勝手に大魔境に入る事ができなくなり、生活できなくなったのです。

 相手がルークでなかったら、重罪の越境になろうとも、秘密裏に大魔境に入って密猟や密採集をした事でしょう。


 ですが相手は世界最凶最悪のルークです。

 密猟や密採集は命懸けではなく、確実な死が待っています。

 あ、いえ、私が言い聞かせているので、殺したりはしないでしょう。

 恐らくは、また豚や蛙に変化させるのでしょう。

 いえ、もう変化させているはずです。


 民の中には向こう見ずな馬鹿もいるはずですから、既に大魔境に入ろうとして、取り返しのつかない生き地獄に陥っている者がいるはずなのです。

 そんな者を人間に戻すように言い聞かせないといけません。

 ですが大魔境を私の国だと思っているルークに、勝手に入り込んだ人間を許せと私が言っても、聞いてくれるかどうか自信がありません。

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