異世界転移 134話目




「鋒矢の陣だ! カルタサーラの奴等を叩きのめせ!」


「仕切り直しだ、鶴翼の陣で迎え撃つぞ!」


リキッド王国とカルタサーラ共和国の戦いは佳境に入っていた。




「腰ミノだけ着けて言われても、しまらねえなぁ……」


問題は男は腰ミノで女は下着姿だと言うことだが。


「ケン殿、のんきなことを言ってないでください!」


「いや、そう言ってもなぁ……やる気が出ねぇんだよなぁ。

あ、女の相手だけをしろって言うなら千切っては投げ千切っては投げの活躍を期待してくれ!」


ケンはそう言うと、腕を組み首を捻ってやる気が出ないと言うが、女性限定で大活躍してみせると力説する。


「いや、もともとあんたのせいだろうが!」


そんなケンに、当たり前だが王太子は怒って怒鳴り付ける。


なんにしろリキッド王国もカルタサーラ共和国の兵士達は、そこら辺に落ちている木の枝や石を拾って武器がわりにして対峙する。

魔法使い達はそれぞれが呪文を唱え、何時でも魔法を発動できる状態にして命令を待っていると、ケンが両軍の間に立ちつまらなそうにカルタサーラ軍に向かい話しかける。


「あー、カルタサーラ軍につぐ、さっさと女は投稿して俺のそばに来い、美女と美少女に限るが。」


「ふざけるな! 条件は五分五分なんだ、みんなも騙されるなよ!?」


カルタサーラの1人がそう言って周りを鼓舞する、どうやら士官の1人のようでしきりに周りに声をかけて戦意を高めようとしている。


「ッチ、あのガキはまた消えたか……カルタサーラの兵士達よ、確かに装備も数も互角かもしれん。

だがな、たとえここで勝ってもお前らはどこにどうやって行くと言うんだ、その格好で。

リキッド王国軍は当たり前だが後詰めの軍が居るんだぞ。 それに季節は冬だ、その格好で生き残れるとでも?」


ケンの言葉にハッとするカルタサーラ士官、そして気がつく。

声をかけていた兵士達が自分を白い目で見ていることに、そしてケンはカリーナとシリヤに殴り倒されてクリスに説教をされ始めていたが、最後に一言言わせてくれと立ち上がりカルタサーラの兵士に向かって叫ぶ。


「お前ら、降伏するなら本当に早くしろよ? お前らを恨みぬいているのが15万ほど近くにいるんだからな。」


何を言っているのかとカルタサーラの兵士達は思ったが、丘の向こうから近づいてくるざわめきを聞きハッしてそちらを見ると、奴隷兵がやはり腰ミノや下着を着けた裸に近い格好で現れる。




そう、支配の魔道具も着けていない姿で―――




「あいつ等だ! あいつ等がカルタサーラの奴等だ!」


「殺せ、殺しつくしてやれ!」


「妻の、子供達の仇だ!」


奴隷兵達は手に手に石やそこらの木の枝を持ち、中には素手のままだが鬼のような形相で走り来る。

対するカルタサーラ兵は、真っ青になって逃げ始める。


「た、助けてくれ! 俺は命令されてやったんだ!」


「嫌あぁぁぁ! 死ぬのは覚悟してたけど、こんな、こんなのは嫌ぁ!」


「ま、待ってくれ! 降伏する、降伏するから殺さないで……ギャアァァァ!?」


戦場は地獄となった。


戦いとは常に地獄とも言えるがほぼ一方的な殺戮、しかも嬲り殺しになっているのでカルタサーラの兵士にとっては地獄としか言えなかった。


カルタサーラ兵には女性もいたが、犯されることよりも悲惨な拷問を受けている。

それを見ているリキッド王国軍の兵士の中にはゲーゲーと吐いてるものや、カルタサーラの兵士と間違われて襲われて仲間に助けられているものもいた。


「で、殿下はお下がりください!」


「近づけるな、とにかく誰も近づけるな!」


「な、何てことだ……これでは……これではただの殺戮ではないか!」


「エルフリーデ様も下がるっちゃ! もっと下がるっちゃよ!」


「うぷ! げぇほ! こ、こんなことに、こんなことになるなんて、ドライト様はなんでこんなことを!」


そしてリキッド王国の王太子は近衛兵達に、エルフリーデはその光景に吐きながらリンカと少数のエルフと獣人達に守られながら脱出しようとしていた。

15万の奴隷兵の勢いは止まらず、リキッド王国軍の兵士も襲われ始めているためだ。


「ご主人様、エルフリーデ様の言う通りです、ドライト様ならこうなると予想できたはずです、なのになんでこんなことを!」


「く、来るな! 私達はレーベン王国の者よ!

ご主人様、早くエルフリーデ様達と一緒に逃げよう!」


「……あれでドライト様も怒っていたんじゃないですか、邪神戦争が終わってこんなに早く人同士で争った私達に。」


そしてケン達は立ち尽くしていた、エルフリーデやリンカ達はまだ近くに居るのだが、王太子にエルフリーデが居るためにケンのことなど気にしてる暇がなく逃げようとしていた。


そして徐々に奴隷兵に囲まれ始めているのだがケンは仁王立ちのまま動かずにいて、クリスはケンにすがり付きながら何でこんなことになったのか嘆いていて、カリーナは近づいてくる奴隷兵に棒切れを向けて近づくなと牽制しており、シリヤは諦めた表情で人間のバカさ加減でこうなったとつぶやいている。


「ご主人様、せめて死ぬときは一緒に……」


「来るな、来るな! 私は、私達はケンの子供を産んで幸せになるんだ!」


「……ただでは死ぬのは性に合いませんね、出来うることをします。」


クリスはケンと離れまいと必死にしがみつき、カリーナは諦めるかと棒を振り回す、シリヤもそうつぶやいて近づく奴隷兵をにらんだ瞬間だった。




「―――――カッ!!」




ケンが言葉にならない裂帛の叫びと共に、何も持っていないはずの右腕をまるで槍を地面に叩きつけるかの様に振り下ろしたのだった。



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