異世界転移 119話目
ケン達の微妙な視線を受けながら紅茶を楽しんでいたドライト達だが、セレナがカップを置くと家族のみなを見回して宣言するように言う。
「ふぅ……一息つけましたし、そろそろ帰りましょうか?」
「そうだな、クソジジイ共もそろそろ温泉から上がるだろうしな。」
セレナがそう言うと、クリスが素早く椅子を引き立ち上がる、続いてディアンの椅子をパールが引き立ち上がらせる。
そしてそれを見たカーネリアとアンジュラがカップを置くと、カーネリアの椅子をアルマが、アンジュラの椅子をセイネが引き立ち上がる。
最後にチェルシーとポリーの2人が、意地汚くカップに残った紅茶をあおって飲んでいるドライトの椅子を一気に引き、椅子から転げ落とす。
「あぶな! 落ちる前に、飲み干してて助かりました!」
「「ガルルル……。」」
ドライトは紅茶を飲み干しててこぼさなかった、それを見て唸るチェルシーとポリー。
「な、何をしてるのですか!」
慌てて駆け寄ろうとするクリス、さすがのケンも驚き呆然としていたがさらに驚く、一瞬のうちにセイネがチェルシーとポリーを叩き伏せたからだ。
「死にたいのか? なら勝手に死ね、アンジェ様の旦那様に不敬をするなんて考えずにどこかで勝手に死ね!」
そう言うとショートソードを取り出し、チェルシーとポリーに向ける。
チェルシー達はあまりの迫力と殺気に動くことも出来ずこのまま殺られるかと思ったが、ドライトがセイネの腕にしがみつき止める。
「まぁまぁ、私が飲み干してたおかけで紅茶はこぼれてません、被害は強かに打った私のお尻だけで……天罰でも下した方がいいかもしれません!」
助けるのか助けないのかハッキリとしろ。
そう言いたかったケンだが、またもや何も言えなかった。
何故ならセイネが眉根を寄せてドライトの匂いを嗅いでいたからだ。
「クンクンクン……? クンクンクン……そこのでかパイ狐、ちょっと来い。」
ドライトに腕にしがみつかれたセイネは、不思議そうにドライトの匂いを嗅いでいた。
そして何か悩むような表情でリンカを指名すると来いと言う、そして言われたリンカはというと、反応する前に座っていた椅子ごとセイネとドライトの前に音もなく移動させられる。
「ちょっと嗅いでみて。」
「な、何をするんですか! 私は妙齢の女性に匂いを嗅がれて悶える趣味はありませんよ!」
そしてセイネは腕にしがみついているドライトをリンカの方に差し向ける。
匂いを嗅がないでくれ! っと言うドライトだが片腕を上げて脇の匂いを嗅ぎやすくさせている、嫌なのか嗅いでほしいのかハッキリとしろ、またも考えるケン。
何にしろリンカはいぶしがりながらドライトの匂いを嗅ぐ。
「スンスン……ん? スンスンスン! な、なんちゃこれ!?
なんか凄い嫌な気分になるっちゃよ!」
そして匂いを嗅いだリンカは最初はオズオズといった感じだったが、勢いよく嗅ぎ始めると嫌な気分になる臭いがすると言う。
「だよね! アンジェ様、ドライト様から物凄い微妙にですが変な臭いがします!」
リンカの言葉にセイネも大きくうなづいてアンジュラに報告をする、するとアンジュラは―――
「……私にも嗅がせる!」
「あ! 私も抱き締めさせろ!」
っと言って人化したままセイネからドライトを受けとると、抱きついて首の辺りの匂いを嗅ぎ始める。
そしてそれを見たカーネリアもアンジュラごとドライトに抱きつき、頭の辺りの匂いを嗅ぎ始めて恍惚としている。
何をやってんだんだこいつらは……っと見守っていると、アンジュラとカーネリアがほぼ同時に顔を上げて嗅いでた場所からセロファンのようなものをはがし取る。
「こいつか?」
「……これだと思う。」
そう言ってセロファンを差し出すと、とたんにセイネは眉根を寄せ、リンカは嫌そうに鼻を摘まみ離れる。
そして劇的に変化があったのがチェルシー達、犬っ娘の3人だった。
「ガルルル!」
「ワンワンワン!」
「ウゥゥゥーーー!」
チェルシー達は吠えたり唸ったりしながらセロファンをにらむ、それを見たセレナとディアンが1枚づつ受けとると匂いを嗅ぐが。
「……何かしらこれ。」
「……確かに匂うが、嫌な臭いとは思えんのだが?」
セレナとディアンはそう言うと顔を見合わせる。
だが、ドライトを抱き締めていたアンジュラがポツリともらす。
「……これ……ワンちゃん達の鼻を誤魔化す。
……そして、判断も狂わす。」
「ああ、そう言うことか!
犬人達は鼻が良いだけじゃなく、その臭いから色々と情報が知れるんだった!」
アンジュラのつぶやきを聞き取ったカーネリアが、犬人族の特性を思い出すと、セレナも納得しながらつぶやく。
「ああ……で、この臭いはワンちゃん達にはすごく嫌な臭いだから、嫌悪感とかで正常な判断が出来なくなるのね。」
「つまりドライトは、犬人族に気づかれたくない何かが有るから、これを体に張って何かを誤魔化してたということか……。」
あっという間に色々とバレたドライトはジタバタと暴れていたが、カーネリアとアンジュラの拘束からは逃げられないようで暴れているだけだった。
そしてそれを見たセレナが。
「リア、アンジェ。」
「ん。」
「……らじゃ。」
短く命じると、カーネリアとアンジュラは返事と共にドライトの身体中を嗅ぎ始める。
「や、止めるのです、もう何も出てこないのですよ!」
そう言うドライトだったが、次々とセロファンをはがされていき、そして少し経つといつの間にかチェルシーがドライトに抱きつき匂いを嗅いでいた。
「……ワンちゃん……夫から離れる。」
「お? 犬っ娘は浮気か?」
それに気がついたアンジュラとカーネリアにそう言われるが、それも無視して一心不乱になって匂いを嗅ぎ続ける。
セイネがそれを見て目を細めてチェルシーに手を伸ばした瞬間、チェルシーは目を見開き大きな声を出した。
「見つけました、ここです。
ここに有ります! ここに美味い肉が有るのです!」
「お肉? クンクンクン、本当だ……お肉の臭いだ。」
チェルシーの言葉を確認するように、セイネも鼻を寄せて匂いを嗅ぐとお肉の臭いがすると言う。
「ドライト、出しなさいな。」
それを見ていたセレナがそうドライトに命ずると、ドライトは観念してどこからともなく―――ハムを取り出した。
「これじゃあないです!」
「違うわね!」
「観念して出せ~!」
が、チェルシーといつの間にか近くに来て匂いを嗅いでいるアルマとポリーに否定される。
「……ドライト。」
それを聞きセレナは目を細めて再度命じる。
そしてドライトはギョっとしながら犬っ娘達を見て、そしてセレナを見てからシブシブと大きな肉の塊をまたどこからともなく取り出す。
「これです! いただきます!」
「ごちになります!」
「わお~ん!」
「ありがたいっちゃ!」
そしてその肉が取り出されたとたんに飛びつく犬っ娘3人+1人。
「ステイ!」
だがセイネがそう叫び、チェルシー達とリンカを叩き落とす。
そして肉の塊をドライトから受けとると、それをセレナに見せるのだった。
「……これ、ローストビーフね、女神達が揉めている原因の。」
「へ? そ、それってどういう……。」
セレナのつぶやきを聞いたミラーナがセレナに質問をすると、セレナが仕方がないと最近マリルルナが現れない理由を教えてくれるのだった。
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