異世界転移 99話目




「ふぅ……物資の運び込みは順調だな?」


「はい、子爵様。 かなりの資材と食糧の運び込みが出来ましたから、民の受け入れを始めても問題ないでしょう。」


「これもケンのおかげだな……笑いが止まらんな!」


「そうですな!」


「「ハハハ!!」」




子爵と呼ばれたのはケンではなくシュタインベルク子爵のフェリクス。

彼は今、復興が始まったばかりのシュタインベルクに居た、隣には冒険者時代からの腹心で代々フェリクスの家の家宰を勤めているノルダールが立っていた。


そして2人がなぜ高笑いをしているかと言うと、シュタインベルクには多すぎる移民が居ないので復興が順調に進んでいたからだ。

そして何故、現役最強と言われていて魔王の討伐にも成功した勇者のフェリクスの元に、多くの移民が押し寄せないかと言うと―――


「しかしお前の言う通りに、ケンのアホを持ち上げてフェルデンロットの復興は間違いなし! って言いふらして良かったな?」


「ええ、復興に民はもちろん必要ですが、多すぎる民は妨げになります。

男爵、今は若と同じ子爵でしたな……フェルデンロット子爵が余分な民を引き受けてくれたおかげですな?」


「「ハハハ!!」」


要するに、ケンが苦労している多すぎる民はこの2人が関係しているのだ!


「ねぇあなた、それにノルダール、高笑いはいいけどケンにバレた時の事は考えてるの?

絶対に報復してくるわよ。」


「ハハハ! パトリシア……どうしよう?」


「いえ奥様、私達はいかにフェルデンロット子爵が素晴らしいかを民に説いただけです。

なんら問題ありません!」


「あなたねぇ……それにノルダール、真っ青になって言っても説得力がないわよ?」


パトリシアはそんな2人をあきれた顔で見ていると、かなり慌ててジャンナが走ってやって来る。


「あ、あんた! それにパトリシア! 大変だよ!」


「ジャンナ奥様、あなたもフェリクス様の妻として貴族になるのですから、口の聞き方はもちろんですが走るなん[ドカ!]ぐぇ!?」


ジャンナを注意しようとしたノルダールだったが、ジャンナの蹴りを食らって吹っ飛ばされる。


「ノルダールいたのですわね。 それよか大変なんだって!」


ジャンナは心持ち貴族らしく見せてからフェリクスとパトリシアの元に行く。


「ジャンナ、あなたノルダールが避けられないように絶妙なタイミングで蹴りを入れたでしょうに……」


「まぁまぁパトリシア、それで何があったんだ、テクタイト様でも攻めてきたのか?」


パトリシアはため息をつきつつ、フェリクスはほがらかに笑いながらそう言うと、ジャンナは真顔で答えるのだった。


「なんだ、知ってたのかい? テクタイト様が眷族を連れて攻めてきたのに余裕があると思っていたら、知ってて対応策も出来てたんだね。」




「………………な、なんだとぉ!?」




ジャンナの話を聞いて、フェリクスは思わず叫んだのだった。




「はぁ……なんでワシがこんなことを…… ん? 来たな、仕方ない言われた通りにやるか。

来たかフェリクスよ! この黒竜王テクタイトをよくも騙してくれたな!」


テクタイトと眷属達はシュテットホルンの復興のための物資集積場に居座っていた。


「テクタイトよ、騙したとは何の事だ! それよりもそこの物資はシュタインベルクの復興にどうしても必要なんだ、それは見逃してくれ!」


「……テクタイト様、なんでここの物質集積場を狙ってきたんですか?」


「……そういや変だね? テクタイト様が、竜達が欲しがる物なんかここには無いはずなのに、なんでここが攻めるんだい。

まるでここがシュテットホルンの泣き所って、知ってて襲ったようだね?」


フェリクスは勇者として勇ましく、パトリシアとジャンナは不審そうにテクタイトを見ながらやって来る。


「ええっと……フェリクスよ! 貴族の爵位が上がれば強くなるとワシを騙すとは言い度胸だ!

報復としてここの物資を焼かれたくなければ、金目の物を洗いざらい差し出せ! ……って本当になんでワシがこんなことを!」


パトリシアとジャンナの方を見ずにそう叫ぶテクタイトだったが、手に紙を持って台詞を嫌々言っているのが丸わかりだった。


「……テクタイト様、そう言えばテクタイト様はケンのところに行ってたんですよね、そこで何か有りましたか?」


「……いいや、何もないぞ。

フェリクスに騙された怒りで我はやって来たのだ。」


「…………テクタイト様、あなたも眷族もやる気が丸っきり無いじゃないですか!」


パトリシアの言葉通りテクタイトやその眷族達は皆、竜本来の主戦場の空でなく地上に降りていた、しかも眷族のうち何頭かは寝ているのだ!


「ほ、本当に何もないったらないんだい!

何にしろフェリクス、勝負だ!」


「………………いやテクタイト様も飛んですらいないですし、言葉まで崩壊してますよ? 本当に何があったんですか!」


「………………ケンとドライト様に負けて命令されて来た。」


「「「……はぁ?」」」


テクタイトの衝撃的な暴露に、フェリクス達はあぜんとするのだった。




「おぉーいテクタイト! ちょっと一勝負といこうぜ?」


「む? なんだケンよ、ワシと勝負をつける気に……」


ケンの言葉に反応したテクタイトがケンの方を見ると、そこにはなんと!


「ちょっとケンさん! 本当に約束してくれるんですか!?」


「おお、ここでテクタイトをボコッて従わせたら、クリスの手料理をアンナとティーアの手で交互に食わせてやるよ。」


「ウッヒョー! 何回か殺しても構いません! 私が蘇生させますからね!?」


テンション爆上げで本性を現したドライトに乗ったケンがいた。

普段の1メートルほどの可愛らしい―――ところが探せばどこかに有るかもしれない姿ではなく、20メートルほどの本来の姿に戻ったドライトに、ケンは股がっていたのだ!


しかも裏取引は済んでいるようで、ドライトはやる気満々だった。


「ちょ、ちょっと待て! なぜドライト様に乗っている!?」


「おう、俺の騎龍として短期間契約で雇ったんだ。」


「そんなの卑怯だろうがぁ!」


そしてテクタイトは瞬殺され、ケンの命令を聞かなければいけなくなったのだった。




「いや、それは……」


「なんと言えば……」


フェリクスとノルダールがなんとも言えない顔でいると、パトリシアは気になったことを聞く。


「あのテクタイト様、それじゃあ肝心のケンとドライト様はどこに行ったんですか?」


「……石材を確保すると言って、どこかに行ってしまったぞ。」


「石材? フェリクス、石材の採れる石山ってサイクロプスが居て採石出来なかったよね?」


ジャンナが採石場の事を思い出しながらそう言うと、フェリクスは一瞬安堵の表情を浮かべるが。


「あ、ああ……いや、ケンとドライト様じゃ、そんなもの居ないのと同じだ!

急いで見に行こう!」


サイクロプスごときでは足止めにもならないと思い直し、採石場に急行するのだった。



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