第三章 【共和国】編

第一話 【初代勇者の国】




 五千年前。


 才能を持った人間にしか扱えなかった魔術を発展させ、それと並行して才能のないものにも魔術を似たような現象を起こさせる“科学”を発展させた初代勇者が、科学を重視して発展させていく場として作り、いつの間にか国家と呼べるまでに発展した、大きな円形の島国“トゥラスピース共和国”。


 民衆から選ばれた人員数百名が国の方向性を定めていく、君主のいない国家だ。

 この国が建国されてから、何十、何百、何千と、国のトップが入れ替わってきたが、変わってこなかったことは何個かある。


 その一つが、“科学”を発展させ続けてきたということだ。

 現代において、有用とされるもののほとんどは初代勇者が作り出し、しかしその製法は後世に残されず、現在は作成不可能な古代の遺物と化している。

 しかし、共和国に暮らす科学者たちは、知識を綿々と受け継ぎ、競いあい、時代を重ねていくごとに発展させてきた。

 その結果、国の様相はどの国と比較しても明白に違うものとなっている。


 そんなこの国の首都にして人の暮らす唯一の都“ウィル”に足を踏み入れた誰もが、きっとこう思うだろう。


 「なんだこの国は」と。






 * * * * * * * * * *






「――なんだこれ」


 王国を出てから一か月弱。

 道中、特に何事もなく旅路を終え、首都の門を潜った先で、葵は眼前に広がる町を見てそう呟いた。

 視線の先に広がっているのは、中央に向かうにつれて首が痛くなるくらいに顔を上げなければ天辺が見えなくなるくらいの、超高層ビル群があったからだ。

 一番外周にある建物でさえ、最低でも五階建てはある。

 隣にいるラディナも、これで人の暮らす街に入るのが四度目となるソウファもアフィも、一様に無様に口をポカンと開けて、王国では見ることのなかった建築様式に度肝を抜かれていた。

 ふた月前にこの国を去ったばかりのムラトたちだけは、何事もないかのように振舞うかと思われたが、やはりこの国でしか見られない光景を前にして、遠くに広がる高いビル群を眺めている。


「本で事前に知識を得てはいましたが、まさかここまでとは……」

「今までの建物が豆粒みたいです、主」

「……」


 ラディナが自分の知識を上回る光景を前に愕然とし、ソウファはそれまでに見てきた三つの王国の町と比較して、精いっぱいの表現をした。

 アフィは、驚いて声も出ないくらいに、目の前の光景に釘付けになっている。


「いやぁ……やっぱいつみてもこの建物たてもんすっげぇよなぁ……。あっこから見える先もずーっと似たような光景が続いてんだもんなぁ」


 ムラトの言葉に、他のハーディ、アブー、ラムジが言葉もなく頷いている。

 共和国唯一の町であるウィルは、直径にして百キロ超えの超超超超超大都市である。

 アルペナム王国の首都であるアルメディナトの直径が二十キロなので、その五倍はあるのだ。

 ならば、今見えている一番遠くのビルは、いったい何キロ先のビルなのだろうか。


「……とりあえず、組合に行きますか」

「支部がそこら中にあるぞ。最寄りはここから……こっちだな。ついてきな」

「お願いします」


 ムラトに先導され、人気のない裏路地へ。

 屋根上を走るにはビルの屋上に行く必要があり、流石にそんな時間があるなら路地裏を走る方が早いだろう、と総意の上で今までのことから考えると珍しく、屋根上を走っていない。

 走りやすさで言えば平面の屋上が一番だろうが、葵たちが基準にしているのはあくまで効率なので、今回は見送る。

 少し危険だが路地裏を“身体強化”で一気に駆け抜け、ものの数分で目的地の組合支部へとたどり着く。

 目的の組合支部は、アルメディナトのものよりも大きなガラス張りのビルだった。

 十階建てはあるだろうか。


「にしても、ラディナはほんとに十二歳かよ」

「はい。ムラト様の言う通りです」

「……その質問、これで十回目だぞ」


 もうそろそろ数えるもの面倒になってきた質問に、ラディナは丁寧に腰を折って答える。

 もう見慣れたその光景を前にして、葵が呆れたようにその質問の回数を教えると、信じられるか? と大仰な身振り手振りを加えて自身の正しさを証明し始めた。


「いやだってよぉ……“魔力操作”の使い方が上手すぎるんだよ。道中で見せてもらった葵のは別格だが、歳のことを考えるとラディナもやっぱり常人から見るとおかしいんだって」

「そう言うから、コツとかも教えたろ? 実際、ムラトたちもレベルアップできてるんだから、問題ないでしょ」

「いやまぁそうだけど……」


 頭を雑に掻きつつ、問題はそこじゃねぇんだよなぁ、とムラトはボヤく。

 たが、こうしてラディナの実力の高さを信じられなくても事実は事実。

 ありのままの事実を受け入れなければことは進まないので、しゃーねぇとそこで話題を打ち切った。

 その後、組合に入り、依頼の進展を確認する。


「ないな」

「ですね。まぁ今頃、到着してすぐか、まだ到着もしていないグループもあるでしょうし、当然といえば当然ですね。そもそも最有力はここですから」

「それもそうだな」


 予め決めていた連絡方法で確認を取ったが、どのグループからも進展の報告はなかった。

 時間を考えればそれも当然なので納得し、ムラトたちとはここで分かれる。


 召喚者という立場上、一般人であるムラトたちと行動を共にすれば、色々と面倒になる場面もあるだろう、という判断からだ。

 建前上は、大人数でこの人ごみの中を移動するよりも、バラバラに別れた方が見つかりやすいだろう、と言ってある。

 葵は主に町中で情報収集を、ムラトたちにはダンジョンで実力アップを図って貰いつつ、結愛の捜索をお願いしてる。


「では、皆さん。ひと月ほどありがとうございました」

「こっちこそ、海渡ったときとか面白いもん見せてもらえたから、飽きずに楽しく来れたよ。ありがとな」

「ムラトと同じ意見なのが気に食わんが、楽しくやれたぜ! ありがとな!」

「こんな別れ方でわりぃな、葵の坊主。俺も楽しかったぜ」


 ムラトを始めに、アブー、ハーディと挨拶をしていった。

 ハーディが挨拶をするときには後ろの方でムラトとアブーが取っ組み合っていたが、それはもう見慣れた光景なので問題なしだ。

 ハーディがやめんか、と宥めるまでがテンプレで、今も挨拶を終えたハーディが二人の喧嘩を止めに行っている。

 そんなハーディを視界の端に、ラムジと挨拶をした。


「俺も楽しかった。色々教えてくれて、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 ラムジが手を出して、握手を求めてきたので、それに応える。


「もしこの町で長距離を移動するなら、地下路線を利用すると良い。値は張るが、“身体強化”で屋根上を移動するよりも効率的だ。葵の呪いを考えても、そっちの方がいいだろう」

「そうですね、そうします。ありがとうございます」


 ラムジの配慮に感謝して、葵は手を話す。

 後ろではようやく喧嘩が終わったようで、そこにラムジが合流し、人ごみの中に消えていった。

 それを見届けて、葵はラディナたちへ視線を向ける。


「じゃ、俺たちも行こうか」


 その言葉で、葵たちは動き出した。

 まずは、この国で動きやすくするために、結愛を探しながら総理大臣に会う。






 ムラトたちと別れてから、一時間ほどが経過した。

 葵たちの姿は、共和国の中央に位置する、円形で直径十キロの第零区にあった。


 この国の唯一の人の住む町であるここウィルの地図は、中央に零区を置き、王都アルメディナトと同じように縦横と大通りがあって、そこからさらに中通りによってアナログ時計のように十二分された区画がある。

 時計の時刻と同じで、十二から一の間が一区、一から二の間が二区とあり、その調子で一周回って十一から十二の間が十二区となっている。

 そして零区を除き、一区から十二区までは底面の丸い二等辺三角形のような形をしているため、零区に近い区画を内周部、遠い区画を外周部、内周部と外周部に挟まれた区画を中間部とさらに区別している。


 その理由は、零区を除いても直径がまだ九十キロもあるため、区分した方が外から来た人も分かりやすいだろう、という配慮からだ。

 ちなみに、葵たちが最初に入った組合の支部は、三区と四区の間に位置する東大通りの都市門から一番近くにある、『第三区外周部・第三組合支部』という名称だった。

 第三区の外周部にある、第三区で三つ目に作られた支部、という意味らしい。

 住所ならもっと細かく区分されているが、公共の施設の場合は基本的な呼び名が支部のように区画と内中外の三部で表記されるため、葵たちのように外から来た人の困惑も少しは減るだろう。


 地下路線はその最たるものであり、区画ごとに零区から三部を放射状に貫くように走る放射線と、三部を区画ごとに円周上に走る円周線の二種類がある。

 放射線は、名前が同じなだけで、放射能とかとの関係性は一切ない。

 地下路線を使い別の区画の別の二部に行きたい場合は、必ず一度、乗り換える必要があるが、葵たちの場合は零区に用事があったので、放射線を終点まで乗っているだけでついた。

 わかりやすくて助かった。


 零区で下車し、駅員に最寄りの組合の場所を聞いて、組合で予め作ってもらっていた組合長権限の手紙を組合長に渡して、話せる部分の事情を話して、首相官邸の場所を教えてもらった。

 そして今葵は、零区にある首相官邸の門の前で、インターホンを押したところだ。

 数瞬ののちに、インターホンから女性の声が聞こえた。


「はい」

「すみません。召喚者の綾乃葵というものです。首相との面会をお願いしたいのですが」

「召喚者、アヤノアオイ様ですね。アルペナム王国、国王様よりお聞きしております。どうぞ、お入りください」


 コネってやっぱり偉大だな、と思いつつ、ひとりでに開く門から入る。

 ソウファとアフィは魔物であるがゆえに電車に乗る際もひと悶着あったため、ここで待機をお願いするか迷ったが、魔物が単体で町中にいた場合、騒ぎになること必至なので、首相には事情を説明して魔物の滞在を許可してもらうことにする。

 門からそこそこ長い庭を通り、メイドさんが開けてくれた玄関から官邸にお邪魔する。

 内部はシックなものだがかなり年季の入っているものが多かった。

 尤も、五千年前から同じ建物であるということはないと思うが。


 官邸に入ると、一人の黒いスーツを着た女性がいた。

 髪は青色の強い黒で、首あたりまで伸びたそれを後ろで小さく結っている。

 黒っぽい眼鏡をしており、その向こうにある髪色と似た瞳は、切れ長で彼女の美しさを際立たせている。

 スーツのモデルに選ばれるような、細身のスラっとした体型で、雰囲気は仕事のデキる人そのものだ。

 若干、睨まれている気もするが、それはきっと彼女の切れ長の瞳がそうさせるのだろう。

 葵がそんなことを考えていると、彼女は丁寧に腰を折り、頭を下げた。


「お初にお目にかかります。召喚者、アヤノアオイ様。私は首相の秘書を務めております、リンコ・トードーと申します。この度は、アヤノアオイ様の案内を務めさせていただきます。よろしくお願いします」

「初めまして。綾乃葵です。こっちは側付きのラディナです。よろしくお願いします、トードーさん」


 葵が一緒にラディナを紹介する。

 それに頷いて、リンコは礼儀正しい動作で先を示した。


「はい。ではこちらへ」

「あ、はい」


 有無を言わせないような圧を感じ、葵は言いたかった言葉を飲み込んだ。

 おそらく、リンコにそんな気はないのだろう。

 むしろ、仕事を全うしている秘書、という感じがあり、リンコのカッコよさがより際立つような気がした。

 リアルサラリーウーマンを見たのはドラマ以外じゃ初めてなので、少し気持ちが荒ぶりかけた。

 結愛に似た雰囲気を持っている、というのも、大きな要因だろう。

 そんなリンコに先導されるまま、タイミングを伺いつつ葵は後ろをついていく。


「床がベッドみたいにふかふかしてますよ、主」

「そうだね。きっと、ここを歩く人の足を気遣っているんだと思うよ」

「優しい人が作ったんですね!」


 官邸は今までは言った建物よりもずっと広く、ずっと自然で暮らしており、まだ組合の施設や公共施設、一番高貴そうな場所でも王の執務室くらいしか訪れたことのないソウファからすれば、カーペットの敷かれた廊下は珍しいのだろう。

 廊下の中央に敷かれた赤いカーペットと両端の大理石の部分を交互に歩き、その感触の違いに一喜一憂している。

 背中に乗るアフィがゆらゆら揺られていて、酔いやすい梟ならすぐにギブアップしそうなものだが、アフィは別段なんともなさそうにしている。

 ともあれ、今はソウファとアフィが魔物であることを説明しなければならない。

 もし説明しそびれて、あとでソウファたちが魔物だと知れたら、首相暗殺を目論む悪い奴と思われないこともない。

 召喚者という立場上、それで即死刑! ということにはならないだろうが、面倒ごとになる前に、芽は摘んでおきたい。

 覚悟を決めて、葵は前で先導するリンコに話しかける。


「あの、トードーさん。先に言っておきたいんですけど――あ、歩きながらで大丈夫です」

「はい。それで、話しておきたいこととは?」

「えっと、こっちの狼とその背中の梟は、その……魔物なんです」

「はい。存じております」

「え?」


 割と勇気を出して言ったのに、ケロッと返されて驚きを隠せない。

 その驚きが表情に出ているのか、リンコは凛とした雰囲気を崩して笑った。


「アルペナム王国の国王様より、召喚者であるアヤノアオイ様がこの国を訪れること。訪れた際に、きっと協力を求めてくること。アヤノアオイ様が、魔物を連れていることなど、色々なことを、首相伝手ではありますが、聞き及んでおりますので」

「……いやでも、魔物を連れているって言われて、少しは怖い気持ちとか抱かなかったんですか?」

「いえ、少し緊張はしていました。きっと、初めに挨拶をしたときは、顔が強張っていたと思いますよ」


 そこで、ようやく合点がいった。

 リンコは葵を睨んでいたのではなく、ソウファとアフィを警戒していただけなのだと。

 有無を言わせないような圧を感じたのも、それが原因なのだろう。


「そうでしたか。すみません、早とちりしてしまって」

「? いえ、特に問題はありませんよ。……着きました。この部屋で、首相がお待ちです」


 タイミングよく、一つの部屋の前に辿り着いた。

 その部屋の前にある室名表示板には首相執務室とある。

 その部屋のドアをリンコがノックし、すぐに奥から男性の声が返ってきた。


「失礼します。召喚者、アヤノアオイ様をお連れしました」

「ありがとう、リンコ。どうぞ、掛けてください」

「失礼します」


 男の言葉に従い、葵は示されたローテーブルとソファに座る。

 葵の左後ろにラディナが、右後ろにソウファとアフィが並び、対面に男が座った。

 その間に、リンコがコーヒーを淹れている。


 部屋にいた男性は、黒いスーツに身を包む、真面目そうな男性だった。

 背は大きくもなく小さくもなく、体格も普通。

 髪も短く切りそろえられた黒髪で、黒縁の眼鏡の奥には、これまた真面目で紳士そうな瞳があった。

 そんな彼だが、僅かに疲労しているように見えた。

 目の下のクマとか、少しコケた頬とか、若干パサついた髪とか。

 一度気になれば、無性に目に入ってしまう、そんな僅かなものだが、そう感じた。


 そんな葵の疑問に似た何かを吹き飛ばすように、首相と呼ばれた彼は優しい笑顔で話し始めた。


「初めまして。召喚者、アヤノアオイ様。私はコージ・ハツカ。初代勇者の末裔で、今はこの国のトップにいる男だ。君のことは、アーディル王から聞いているよ」

「初めまして、コージさん。話をする前に言っておきたいことがあるのですが、いいですか?」

「? ああ、大丈夫だ。気にせず言ってくれ」


 葵のいきなりの発言に、少し戸惑いながらコージは答えた。


「俺のことは、様付けでは呼ばないでくれると嬉しいんです」

「……なるほど。承知しました……いや、わかった、の方がいいかな? アオイくん」

「その話し方の方が、とてもありがたいです。敬語を使われるのは、未だに慣れないので」

「それはわかったが……しかし、リンコには様を付けて呼ばれていたと思うが、それは大丈夫なのかい?」


 コージの尤もな質問に、葵は肩を竦めて答える。


「ラディナ――俺の側付きもそうなんですが、女性のほとんどには悉くそれを拒否されたので、言っても無駄なのかなと思いまして」

「それはきっと、今までアオイくんと話してきた女性が、アオイくんに対して曲げたくないものがあったんだろうね。でもリンコはこうして欲しいと言われたら本人が嫌がること以外はできるよ。ね、リンコ」

「はい。アオイ様――いえ、アオイさんが言葉を崩して欲しいと仰るのであれば、可能な限りそうします」

「ありがとうございます。無理のない程度に、お願いします」


 軽く頭を下げて、リンコもそれに応える。

 これで話しやすくなった、と思いつつ、本題に入る。


「では、早速で悪いんですど、あなたと――この国の首相であるコージさんと話がしたい。あなたにメリットがあるかはわからないけど、俺にとっては大事な話です」

「聞かせてもらいます」


 リンコが挨拶を交わしている間に淹れてくれたコーヒーを飲みながら、葵は色々なことを話した。

 この国に来た理由。

 この国でしたいこと。

 そのために、協力してほしいこと。


 葵がそれをつらつらと話している間、コージは何も言わず、時折頷きながら耳を傾けてくれた。

 あらかた話したいことを終え、こんなところだ、と葵が区切ると、コージは一つ頷いて口を開いた。


「わかった。私にできる範囲で協力しよう」

「いいのか? 結構な無茶を吹っ掛けたつもりなんだけど」

「だから、私にできる範囲で、だ。この件、この国の住人や他の議員に罪はない。全て、私が召喚を止められなかったからだ。だから、私が持てる財産とコネは、好きに使ってくれて構わない。ひとまず、私の預金通帳と口座番号、あとは人探しで有力そうな人物の住居と名前を書いたメモを渡そう」

「随分と準備がいいんですね」

「先ほども言ったが、アーディル王から色々聞いているんだ。あらかじめ準備しておいて、君がこちらに接触してこなければこちらから接触し、渡すつもりでいたんだよ」


 コージは立ち上がり、執務机の引き出しから色々と取り出し、それをローテーブルに置いていく。

 それに驚いている間に、コージはソファに座り直し、申し訳なさそうに葵の目を見た。


「これが、にできる最大の謝罪だ。君たちを危険に巻き込み、挙句、更なる危険を強いた、君たちへの謝罪」


 独白するように、コージは呟いた。

 より一層、疲れ果てたサラリーマンのような雰囲気が増した。

 コージの言い分からすれば、きっとこれは自業自得に当たるのだろうが、それにしてもなんだか見ているのが不憫に感じる。

 そう思わせて、こちらに譲歩させるのが目的なら大した策士だが、周りから聞いていた感じからすると、この人は本当に、真面目で誠実な人なのだ。

 だから、全く関係のなかった葵たちを人類存続の為だけに呼び出して、大戦へと参加するようにお願いし、その過程で結愛を行方不明にさせてしまったことを、その小さな二つの肩に背負ってきたのだ。


 本来、その責任の所在を問うのであれば、大戦の最大戦力であった今代の勇者と、その勇者を選抜した先代の勇者、そして召喚をすると決めた六つの国のトップに等しく問われるものだろう。

 しかし、真面目で誠実なコージは、それを一人で抱え込もうとした。

 三十二人分の命を一人で抱え込もうとすることは、はっきり言えば傲慢だ。

 しかしそれは、コージの誠実さの裏返しとも言える。

 そもそも一人で抱え込むのが難しいことなど、コージもわかっているだろう。

 それでもこうして、コージ一人で背負おうとしている。

 なら、それに応えるのが礼儀というものだ。


「コージさん。ありがとうございます。結愛の為に、ここまでしてくださって。俺が必ず、結愛を見つけ出しますから、どうかこちらのことは気になさらずに、ご自身の体とこの国をよくするために、全身全霊を注いでください。俺たちのことが気がかりで仕方がなくて、この国が壊れました、なんてなったら、こっちが責任を感じちゃいますから」

「……ありがとう」


 コージは、絞り出すようにして、そう答えた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます