第432話 式子さんの怖い話~赤い湖に住む巫女 後編~
二駅先で意気揚々と電車を降りると、目を疑いました。
降りてすぐの目の前に湖が広がっていたのです。
それもただの湖ではなく真っ赤に染まった湖がです。
呆然と見ていると、いつの間にか電車は発車してしまい、次の電車が来るまでそこにいなければならなくなってしまいました。
『湖には近づかないように。』
巫女服を着た女性の言葉が頭の中で響きました。
頭の中で響くと、ブワッと恐怖が全身を包んだような気がしました。
歯はガチガチと鳴り、足は震え、その場所にいたくない逃げ出したいという気持ちに襲われました。
自分でも経験したことないほどにです。
けれど、それと同時に臆病な自分に対する憤りも感じていました。
「こんな湖なんか怖くねぇ!!」
そう自分に言い聞かせ、俺は湖へと歩き出しました。
湖が近づくにつれ、異様な臭いに包まれるようになりました。
嗅いだことあるような、でも思い出せない。
服で鼻を隠し、湖の目の前まで来た時でした。駅から見た時は気づきませんでしたが、巫女服を着た女性が座っていたのです。
「あ、あの時の!」
俺が近づこうと一歩踏み出した瞬間でした。足元が嫌な感触を伝えたのです。
変な緊張が走り、ゆっくりと下に目を向けると、地面は泥でぬかるみ、靴の横から染み出てきた水は真っ赤に染まっていました。
「ここには近づかないように。そう、言ったはずです。」
俺の存在に気づいた巫女服を着た女性は振り返りもせずにそう言いました。
「で、でも!」
「ここは、貴方様のような光る魂が来ていい場所ではありません。」
「い、意味が分かんねーよ!な、何だよ光る魂って!!?」
俺が怒声を浴びせると、ゆっくりと巫女服を着た女性が振り返ったのです。
「・・・へ?」
女性の顔にあるべきパーツが一つもありませんでした。
それからはあまり覚えていません。
気が付くと、俺は家の布団の上でボーっとしていました。
母親からは「何処行ってたのよ!!」と怒鳴られましたが、答えることは出来ませんでした。
それから俺は勉学に励み、希望していた大学に進学しました。
大学の夏休みを利用してもう一度あの場所へ行こうとしましたが、湖のある駅も、その先の駅も、路線図には存在していませんでした。
あの場所たちは何だったのでしょうか。
「おしまい。」
「何て言うか、ホラー・・・何ですかね?この話しも。」
「まぁ、捉え方によっては不思議な体験とも言えるが、私は‟のっぺらぼう”の話しのようにも思えてね。一応、怖い話として君に聞かせたんだよ。」
「確かにそう言われればそうですけど・・・何と言いますか、うん。ハッキリと言ってあまり怖くはないですね。」
「ほぉ。では、次の話しは君を恐怖の沼に沈めてあげよう。」
あ、これやばいスイッチ押したかも・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます