第421話 柑奈さんの怖い話~警察官あるある。 前編~

「九重さん!」

お昼休み。いつものようにボッチ飯をしようとしているところに声を掛ける人がいた。

経験の少ない出来事にあたしが固まっていると、顔を覗かれる。

「どうしたの九重さん?」

「い、いや、その、あまり名字で呼ばれることが少なくって・・・。」

咄嗟についた嘘。けれど、どうしてあたしに話しかけてきたのかがわからない。

この容姿のせいで誤解されることが多いことから、あまりクラスメイトの人達とは関わらないようにしていたのだけれど・・・。

「えへへ~。実はね、最近怖い話の番組を見たの。それでね・・・。」

あ~なるほど。あたしがそういう系の部活に入っているから話しかけやすかったってだけか。

「ふ~ん。で?」

「それでね!もっと怖い話を聞いてみたいな~って思ったの!迷惑だったかな?」

「別にいいよ。あたしも話すの好きだし。」

「ほんとう!?うれしいな~。あ!私、前園杏樹まえぞのあんじゅ!杏ちゃんって呼んで欲しいな~。」

なかなかにフレンドリーな子だな。というか、同じクラスメイトなんだから知ってるし。ま、いいか。

「これから毎日よろしくね。」

「・・・は?毎日?」

「ダメだったかな?」

「ま、まぁ、いいけど・・・。」

「わ~い!!」

喜んだ杏樹はすぐさま机を動かし、美味しそうな弁当を広げてきたので、あたしは話すことにする。

「えっと、この話は警察官になった人では良くある話しなんだって・・・。」


俺は子供の頃から将来の夢というものが無かった。それは単に希望が見いだせないとかそんな大層な理由じゃなくって、単純に自分に自信が持てなかったのだ。

だから親の言う通り過ごしてきた。高校も大学も親が進めたところに進学し、大学四年生まで就職活動をしていなかった俺は、親に言われ警察官の道へと進んだ。

なんとか警察官に成れた俺は、早い段階で体の大きい上司に気に入られることになったのだ。理由は簡単、俺が中学、高校、大学と柔道をやってきたおかげで、ガタイのいい体だったからだ。上司の口癖は、『今どきの若い奴はヒョロ臭くって良くねぇよな。』だ。

上司に気に入られた俺は上司の計らいで色んな現場で仕事をさせてもらえた。

万引き現場、交通事故の現場、空き巣の現場、下着泥棒の現場などなど。

本当に多くの現場で仕事をさせてもらえたのだ。

それが一年経った頃だ。上司の電話で非番の日でも仕事に駆り出された俺は初めて人が亡くなった現場、轢き逃げの現場に呼ばれたのだ。

幸いなことに被害者は病院で息を引き取ったので、遺体を見ることは無かった。

だが、この時から俺は変なものが見えるようになっていた。

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