第380話 百物語合宿~お題:駅 後編~

「う~さぶっ!」

深夜は夏なのに、とても寒かったのを覚えています。

「しっかし、変わるもんだな。」

昼間の賑わいとは打って変わって、深夜はとても静かでした。

生き物の泣き声も聞こえなかったんです。

明かりも駅の電灯しかなく、遠くを見ようとしても何も見えません。

俺は黙って駅の中に入り、撮影を始めたんです。

「え~っと。今日は〇〇駅に来ています。え~ここは・・・。」

撮影を順調に進めましたが、幽霊が出る様子はなく、結局撮影を中断してしまったんです。

「はぁ。やっぱそう簡単じゃないよな。」

自販機で買ったココアを飲みながら休憩室で過ごし、このまま朝まで明かそうかと考えていた時です。

「・・・あれ?」

線路を挟んだ反対側の駅のホームに、女性が立っていたんです。

「ま、まさか!?」

慌ててカメラを起動しようとして、俺はあることに気づきました。

「・・・ん?あの人、顔がある、よな?ってことは・・・はぁ。違ったか。」

その女性は何処にでもいそうな格好で立っていたんです。

暗くて顔はよく見えませんが、首がないわけではなかったんです。

「やっぱガセかなぁ。でも、マスターはああ言ってたし・・・ん~・・・。」

俺はカメラをしまい、ボーっとしていました。

一時間ぐらい、ボーっとしていたと思います。

なんとなく女性の方を見ると、女性はまだ立っていたのです。

流石に気になった俺は、その女性に向かって手を振って見たんです。

すると、すぐに女性も手を振り返してくれたんです。

「暇だし、話でもしてみるか。」

俺はカメラはリュックの中に入れたまま、その女性に方へ歩いて行ったんです。

階段を降りて、女性が立っているところまで歩こうとした時です。

「あれ?」

先程まで立っていた場所に女性はいなかったのです。

辺りを見回してもどこにもいないことから、きっと帰ったのだろう。

そう思って休憩室に戻ろうとした時です。


タッタッタッタッタッタッ!


誰かが走ってくる音に振り向くと、駅のホームの端から首の無い女性が走ってきたのです。

「・・・ッ!!うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

一瞬、理解が追い付きませんでしたが俺はそれがなんなのか理解すると、全速力で叫びながら逃げました。


タッタッタッタッタッタッ!


階段を上って反対側に逃げても、まだ足音が聞こえてくるのです。

「ひぃぃ!!?」

無我夢中でフェンスを上り、飛び降りて走りました。

暗闇の中、何処までも走る。

そういう気持ちでしたが、俺の体力はついて行けず、結局ゲームセンターに逃げ込みました。

「どうしたんですか!?」

あの時の店員の顔は覚えています。

そして、いつの間にか消えた足音も。

それからはもう“きさらぎ駅”を探す気にはなれませんでした。

あれが何なのか、今でもわかりませんが今でも俺は若干駅に苦手意識だけはあるのです。


「いや~怖いでありマスよね。」

「そうよね~。特に式子は。」

そういえば式子さんって電車通学だっけ。

「ふふっ。むしろ私はウェルカムだよ。」

でっすよね~。

式子さんなら。

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