第375話 百物語合宿~お題:化け物 前編~

これで、午前中は終了だな。

「次で最後だ。優君、千夏。準備は良いかい?」

「はい。」

「もちろんでありマス!」

と、言っても話すのは千夏さんだけどね。

「それでは・・・お題は、“化け物”です!」

「おお!自分のが当たったでありマス!」

「良かったですね千夏さん。・・・ん?化け物?何ですかこのお題?」

「ふへへ。実はどうしても話したかったんでありマスが、どういうお題にしようか悩んでしまって。結局こういうお題になったでありマス。」

「千夏が話したかったこと?何よそれは。」

「ふへへ。では、お話しするでありマス。これは、とある男の子の話し・・・。」


中学校の頃だったと思います。

同級生の間で“エント”という妖怪みたいな話が流行ったんです。

「なぁなぁ!お前、エントって知ってるか?」

「知ってるよ。猿の体に人間のような顔だろ?」

「何だよ~。知ってるのか。」

「ま、こんだけみんなが噂してれば自然とな。」

あの頃は、皆が皆エントの話しに夢中でした。

けれど、知らない人に自慢するように話すばかりで、見た人は誰もいないんです。

それどころか体験談のような話も無いんです。

ただ、猿の体に人間のような顔としか話さないんです。

「見てみたいよなぁ。エント。」

「みんなエント、エントって言うけど、見た奴なんているのかよ。」

「聞いたことないな。」

「体験談みたいなものはないのか?容姿しか知らないのか?本当にエントなんているのか?嘘っぱちじゃないのか?」

あの頃の俺は、エントという存在を信じていなかったんです。

「う、嘘じゃねぇよ!」

「じゃあ見たことあるのか?」

「・・・ないけど。」

「みんなそうさ。見たことないのにエントという名前と容姿だけが独り歩きしてる。体験談でもあれば多少は信じるが、それもない。嘘以外に何がある?」

「・・・けど!」

「けどもでももない。所詮は嘘。そのうち鎮静化するさ。」

「ゆ、夢の無い奴!」

「どうとでも言え。俺はリアリストなだけさ。」

カッコつけていましたが、内心はエントに恐怖を感じていたんです。

幽霊とか妖怪とか怖くて、そういうものに触れないようにしていたのを覚えています。


・・・それなのに。

「チクショウ・・・俺は信じてるぞ・・・。」

「・・・なぁ。」

「何だよ!」

「単なる好奇心なんだが、エントって誰から話が始まったんだ?」

「はぁ?」

「お前は誰から聞いた?」

「誰って・・・隣のクラスの奴だけど。」

「じゃあそいつは?誰から聞いた?」

「そんなこと知らねぇよ!何なんだよ!」

何故か、そんなどうでもいい事が気になってしまったのです。

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