第317話 研究成果報告~口裂け女について。その3~
そして、そう思ってしまった当時の俺はもうそれにしか見えなくなったんです。
「またいる・・・。」
真っ赤なコートを着た女性は、あの日からずっと同じ場所にいました。
そして俺が通り過ぎると、消えるんです。
「何なんだよいったい・・・。」
ビビりだった俺にとってそんな毎日は、恐怖心を増大させるのに十分でした。
毎日のように見るその女に怯え、だんだん喧嘩やカツアゲをしなくなっていったんです。
「はぁ~・・・。」
「先輩、またっすか?」
「まだいるのか?その女。」
「ああ・・・。」
「何ていうか、こんなこと言うのはおかしいですけど、今の先輩はカッコ悪いっす。」
「お、おい!止めろよそういう言い方。」
「いや言わせてもらうっす。どうしたんすか先輩!いつもの喧嘩は?カツアゲは?最近の先輩、何もしてないっすよ!何もしないんなら授業に出て将来に向けて頑張ったほうが良いっす。何もしないことが一番ダメっすよ!先輩!」
「・・・ああ。」
わかりやすいAの挑発にも俺は返せないほどに追い込まれていました。
日に日に見る影を無くす俺に、我慢の限界を迎えたAはこう言いました。
「よーし!このA、その女に突撃してみようと思うっす!」
「突撃って・・・何するんだよ。」
「その女に話しかけるだけっすよ。」
「やめとけよ。」
「いやです!自分、今の先輩は見てて嫌いっすから。先輩がそうなってしまっている元凶を自分が倒すっす!」
断ろうと思いましたが、Aは言うことを聞かず結局二人であの女がいる帰り道を歩きました。
その女は相変わらず立っていました。
「あいつっすか?」
「あ、ああ。」
「んじゃ自分が・・・。」
女に近づいていくA。
止めるべきなのに、俺は動けませんでした。
するとAは話しかけてすぐに走りって逃げ始めたんです。
「え?」
俺がいる方向とは逆の方向だったので、何が起こったのかわかりませんでした。
けど、一瞬だけ見えたAの顔は引きつっていたように見えました。
動かない女を横目に、またいつものように通り過ぎました。
次の日、昼休みにAは姿を見せませんでした。
「・・・Aは?」
「そういえば今日は見てないな。あれかもな。軟弱になったLを見たくないんだろ。」
Bの言葉を肯定しようと思いましたが、俺は昨日のあれがフラッシュバックして、気がついたらそのことをBに話していました。
「・・・マジかよ。じゃああいつ・・・。」
何かブツブツ言うと、Bは意を決したような顔つきになって俺にこう言ったんです。
「試してみよう。今日は俺がその女に話しかける。」
止めようと思いましたが、出来ませんでした。
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