第297話 高宮君の怖い話~探偵の事件簿中編その4~

「待てよ・・・心中ならどうだろうか。」

「・・・え?」

そう、俺の頭の中を過ぎった閃きは“心中”

「無理心中ではなく、同意の上での心中ならどうでしょうか。それなら抵抗することはないですよね?」

「で、でも妹は一人で・・・。」

「ええ。ですから妹さんと心中しようとした相手は逃げたんです。死ぬのが怖くて。それなら筋が通りませんか?争った形跡もないことも、自殺する理由が無いのも。」

「で、でも・・・。」

納得は出来ないだろう。

自殺ではないにしろ、自殺のようなものだ。

だが、これ以外に考えることはかなり困難だった。

「も、もう少しだけ!調べてくれませんか!」

「ですが・・・。」

「お願いします!せ、せめて!心中相手だけでも!でないと、納得できません!」

お姉さんの圧に負けた俺はもうしばらく調べることにした。


事件が意外な展開に動いたのは調査から一ヶ月経った頃だった。

色々調べつくした俺は、何の手掛かりも見つからないままに唸る毎日を過ごしていた。

そんな俺のいる事務所のあの男は、訪ねてきた。

「す、すみません!」

「あ~・・・すんません。今取り込み中で・・・。」

「ここは、Rさんの事務所で間違いないですか!?」

「そうですけど・・・お宅は誰よ?」

「わ、私、いや僕はAさんの婚約者です!」

Aさんというのは依頼者のお姉さんの名前。

そう、あの日見合いをしていた男が俺を訪ねてきたのだ。

「んで、用件は何ですか?今忙しくてですね。手短にお願いしますよ。」

男はBと名乗った。

「あ、あの、僕、Aさんに会いたいんです!」

「会いたいって・・・勝手に会えばいいでしょうよ。」

「会えないんです!あの日以来!何度も携帯にも連絡してるのに一切つながらないんです!そ、そしたら、妹さんの彼氏さんから貴方がAさんお依頼を受けてるって聞いて・・・。」

(守秘義務もあったもんじゃないな。)

「まぁ、確かに依頼は受けてますよ。」

「お、お願いです!Aさんに会わせてください!」

「何で会いたくないのか、考えてないんですか?」

「そ、それは・・・。」

強い口調で脅せば帰ると、俺は思っていた。

それどころか、自分語りをした挙句、衝撃の事実を俺に突きつけてきた。

「昔からそうなんです。親の言うことに逆らえなくって、言う通りの人生を歩んできて、でも、Aさんだけは本気で、自分で選んで、好きになった人なんです。」

「だ・か・ら!いい加減にさ・・・。」

「好きすぎて、写真も持ち歩いているんです。ほら!」

「ッ!!?」

写真に写っていた女性は、俺の知っているAさんじゃありませんでした。

しかし、俺の知っているAさんにどことなく似てもいたのです。

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