第294話 高宮君の怖い話~探偵の事件簿中編その1~

「あ~・・・殺人事件?え?俺にですか?」

流石の俺も動揺を隠せなかった。

何せこれまでは迷子探しにペット探し、不倫調査や遺産相続問題に金庫の鍵開けなど、人の生き死にとは無縁のものばかりを扱ってきたからだ。

「はい。だ、ダメ、でしょうか?」

美人の悩みを聞き入れたいが、殺人事件となるとそうはいかない。

「警察にご相談はされたんですか?」

「警察はちゃんと捜査せず、自殺だと、決めつけたんです。だ、だから、私、私っ!」

「あ~・・・はい。」

(警察が自殺って判断した事件を俺が?いや無理でしょ。普通に考えて。)

断ろう、そう考えたんですが、どうも俺は美人の涙に弱い。

「えっと、とりあえず事件の概要をお聞きしても?それからご依頼を受けるかどうか判断しますよ。」

これが、俺の人生で最も不思議な体験をすることになるとは、思っても見なかったんだ。


「あらかじめ録音することをお許しください。では、お聞かせください。」

「はい・・・。」

女性は深呼吸をすると、ゆっくり、丁寧に事件の概要を話してくれた。

「殺されたのは、私の妹です。」

「妹さんですか。」

「ええ。親を早くに亡くした私たち姉妹は互いに助け合いながら生きてきました。けど、姉である私に縁談があって、その日は妹一人で留守を任せたのです。」

「妹さんの年齢は?」

「今年で丁度20歳です。」

「20歳ですね。では、続けてください。」

「はい。お見合いは夜遅くまでかかりました。急いで帰ったのですが、家が暗く、妹が寝るにしても早すぎると思ったんです。だから出かけてるって思って、いつも通りに家の中に入ると、妹がお腹から血を流して倒れていました。」

「何処でですか?」

「リビングです。」

「お腹からだけですか?他に刺し傷は?」

「ありませんでした。お腹に一つだけです。妹は両手で包丁をもって腹部を刺して倒れているように見えました。」

「なるほど。それで、警察の判断は?詳しくお聞かせください。」

「両手で包丁を持っていて、それに争った形跡が無かったことから自殺と判断されました。でも私はっ!」

「ええ。お聞かせください。どうして自殺じゃないと思うのかを。」

「それは・・・そ、そう!妹は成人式を楽しみにしていたんです!晴れ着だってもう予約していたし、それに最近彼氏も出来たばかりですよ!?自殺する理由がありますか!?」

「悩んでいたとかではないのですか?」

「悩みは人並みにはあると思いますが、それでも自殺なんて・・・。」

「ん~では、ストーカーなどの被害はありませんでしたか?」

「ありませんけど・・・。」

どう聞いても警察の判断が正しく思える。

俺がその場にいても同じように自殺だと断定しただろう。

要因としては彼氏との仲違なかたがいなどが考えられるが・・・。

「彼氏さんとは仲が良かったんですか?」

「わかりません・・・仲が良く見えましたけど・・・。」

(これは自殺だろうな。)

そう思っていたんだが、どうにも、何かが引っかかった俺はこの依頼を引き受けることにしたんだ。

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