第272話 式子さんの怖い話~掻き毟る中編その1~

「爺ちゃん今年こそあの滝に行っていいの?」

「何!?まだ駄目だ!!Aはまだガキだろうが!」

そう、この田舎には不思議な風習があった。

それはこの田舎にある大きな山の麓、そこには綺麗な滝が流れている。

飲めるほど綺麗な水で、川魚もとても美味しいと。

この田舎の名物みたいになっている。

それなのに、子供は絶対に近づいてはならないと言われている。

「どうしてだよ?俺ももう高校三年だよ?」

「ガキはガキだ。おとなしくこの家で過ごせ。何ならBとイチャイチャしてろ。」

「いやんA君。」

そう、これが不満の一つ。

風習のことは理解できるが、理由も言わずの駄目。

正直、これが原因で爺ちゃんに会いに行きたくなかったというのもある。

だから今年も滝には行けず、喉かな田舎を満喫する。

この時はそれで我慢しようと、思っていました。


「なぁ、Aよ。」

「何だよT?」

Tはこの田舎で唯一知る同年代の友達で、小さい頃は二人で遅くまで遊んでいたほどの仲である。

久々の再開にもかかわらず、Tは僕と仲良くしてくれた。

「今晩、俺は大人になろうと思っている。」

「・・・どういうことだよ?」

「滝だよ。滝。」

「え?」

「お前も知っているだろう?行ってはいけない滝。実は俺さ、先輩が今年20歳になったから行けるようになったそうでさ。一緒に連れて行ってもらえんだよ。」

「マジか。」

「マジもマジ。だから行こうと思ってな。んで、友達を誘ってもいいっていうからお前もどうかなって。んで、どう?」

「行く。」

「だよな!」

祖父の言いつけを守らないという罪悪感はありました。

けれどそれ以上に、僕の好奇心はあの滝に向けられていたのです。


夜11時。

僕は家族が寝静まってからこっそりと家を抜け出しました。

Tの家に行くと、既に先輩二人と共にTも車に乗っていました。

「すみません。」

「全然問題ないよ。それよりも早く乗って。」

「はい。」

車の中でTから軽く先輩の紹介をうけ、俺たちの車は霊の滝の近くで止まったんです。

「ここからは歩いて行こう。」

「つ、遂にだなA。」

「う、うん。」

「お?お二人さんビビってんの?」

「いやD先輩、ビビってないっすよ。これは、そう!武者震いって奴です。」

「僕は正直怖いかな。暗い森が。」

「ナハハハハ。A君は素直だね~。それに比べてTは・・・阿保丸だし。」

「ほ、ほっといてくださいよ。」

「行くぞ。」

C先輩とTが懐中電灯を持ち、二人の間に僕とD先輩が歩くという形で森の中を歩いて行きました。

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