第258話 麒麟園さんの怖い話~二人の彼女中編その1~

何時でも彼女はいた。

何かをするわけでもなく、話すこともなく、ただただ笑っていた。

でも、僕にとってはそれは不思議なことではなかった。

実は、小学生に上がった頃からこういう人を見ることが多かったのだ。

通学路のおじいさん、スーパーの駐車場のおばさん、コンビニ前にいるお兄さん。

みんなみんなただただ笑って立っているのだ。

だから彼女も彼らと同じなのだとすぐに分かった。

だから不思議に思わなかったのだ。


「Aにはワシらの血が流れておる。きっとそのうち・・・。」

「やめてくれよ親父!!」

そう言えば、爺ちゃんと父さんがこんな話をしていたと思う。

まだ小さくてあまり記憶にないけど、きっと僕には何か特別なものがあるんだって思っていた。

その答えを知ったのは中学校に入学した日だった。

「爺ちゃん何か用?」

寝たきりになっていた爺ちゃんが俺を呼んだ。

部屋に行くと、真剣な顔をした爺ちゃんが何かを握っている。

「A、来たか。」

「何か用?僕、宿題が・・・。」

「死ぬ前にお前に話さなきゃならん。」

「何?縁起悪いよ?」

「真面目な話だ。良く聞きなさい。」

爺ちゃんの異様な雰囲気に押され、あの時の僕は黙って座ったんだ。

「ワシらの一族は代々偶数の代に強い霊感を持って産まれてくる。つまり、わしの代、そしてお前の代だ。」

霊感?何言ってんの?あの時は正直そう思った。

けれど、爺ちゃんの何も語らせないような空気に僕は無言で頷いていた。

「お前ももう中学生、既に何人もの死人を見たはずだ。」

「死人って・・・どういうこと?」

「あ奴らは何もしてこず、ただただ笑っておる。」

その瞬間に僕の頭の中で全ての答えが出たのだ。

そう、これまで見てきた人々、部屋の女性、全て亡くなっている人なのだ。

「笑っておるうちはまだええ。が、あ奴らの中には悪意をもって近づいてくる輩がおる。これまではワシがお前を守ってきたが、もう永くない。その前にこれを。」

爺ちゃんが握っていたのは小さな巾着袋。

黙って受け取った瞬間、何だか得体の知れない恐怖を感じたのを覚えている。

「爺ちゃん?」

「Aよ。これを肌身離さず持っておれ。いいか、絶対に持っておれ。」

その言葉を最後に、爺ちゃんは静かに眠った。

それが最後の会話になったのを知ったのは次の日の朝だった。


と、ここまでだったら他の人の体験談でも聞いたことがあると思う。

けれど、僕の場合ここからが違ったのだ。


あれは中学二年生の春。

朝いつものように目を覚まし、部屋にいる女性に挨拶をし、学校に行った日だった。

「今日は転校生を紹介する。自己紹介を。」

「父の転勤でこの学校に転校してきました。Bです。」

目の前に立っている女性は、幼くはあったが間違いなく、僕の部屋にいる女性と瓜二つだったのだ。

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