第249話 式子さんの怖い話~そのカルテは・・・。中編その3~

「確かにこの棚ですか?」

「間違いないよ。ほら、段ボールも奥に動いてるだろ。」

「そうですね。では、もう一度見てみましょう。」


一枚一枚もう一度丁寧に見直しました。

やはり日曜日に見たカルテばかりそこにはあったのです。

けれど、Sさんのだけありませんでした。


「これが最後ですが・・・Sさんではありませんね。」

「おかしいなぁ。」

「念のために隣の棚も見てみましょう。」

「ああ・・・。」


結果は、やはりSさんのカルテはありませんでした。

私は自分の記憶に自信が無くなり、迷惑をかけてしまったAさんに謝罪をしました。

Aさんは気にしないでと、言ってくれましたが、私は心のどこかで納得できていませんでした。

確かに私は見たのです。

Sさんのカルテを。

その日から私は仕事に身が入らなくなりました。

診察は丁寧を心掛け、しっかりと行いましたが、どうしてもSさんのカルテが気になって気になって仕方がなかったのです。


「先生、大丈夫ですか?心ここにあらずって感じですよ。」

「すみません。」

「・・・Sさん、ですか。」

「はい。カルテは見つかりませんでしたが、私は確かに見たのです。けれど・・・。」


証拠はない。

物証となるカルテは跡形もなく消えてしまったのだから。

もはや自分の言葉を信じてもらうしかないのです。


「・・・あ!」

「うん?どうしたんだいAさん。」

「パソコンですよ!先生!」

「パソコン?パソコンがどうしたんだい?」

「つい最近もうちの病院を訪れたんですよね?」

「はい。だけど・・・。」

「なら、受付のパソコンに記録があるんじゃないですか!」

「なるほど!」


私とAさんは昼休みに受付のパソコンを調べました。


「Sさんですよね?」

「そうよBちゃん!調べてちょうだい!」

「は~い。Sさん、Sさん・・・っと。えっと、40代の男性ですかね?」

「そ、そうだよ!あったのB君!?」

「この人じゃないですか?」


パソコンにはSさんの名前がありました。

やはり私は見間違いじゃなかったのです。


「ほ、ほら!Aさん!」

「確かにあるわね・・・って!?せ、先生!?」

「どうしたんだい?」

「受付時間を見てください!」

「受付時間って・・・え?」

「あ。あれ?おかしいなぁ。パソコンの故障ですかね?」


Sさんの受付時間は深夜の1時だったのです。

そんな時間に病院は開いておらず、私も爆睡しているので診ることはありません。

けれど、パソコンの記録は受付カードを読込機よみこみきに差し込むことで記録される。

と、いうことはSさんは深夜の1時にこの病院に訪れているのです。


「う~ん。故障はしていないっぽいですね。他の時間は合っていますし、このSさんだけ壊れるっていうのは・・・ちょっと考えられないですね。それに・・・。」

「な、なんだい?」

「Sさん、毎回必ず深夜1時に訪れていることが記録されているんですよ。少なくとも最近の一年間は。」


パソコンには確かにSさんが診察に来た記録が残っていたのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る