第190話 式子さんの怖い話~ついてくる靴中編その3~

「え?いやいやいや!あれはあんたの革靴でしょ?」

「だから!僕は革靴なんて持ってないよ!必要ないし。」

「じゃあ昨日の革靴は何よ!玄関のところとか。そう!玄関にも置きっぱなしに・・・あれ?」

「玄関?何度も言うけど僕は革靴を持っていないからそんなところに起きようがないよ。なぁ?」

「はい。もしかしたら私のが出しっぱなしに・・・。」

「いやいやいや!それこそ無いよ!だって男物だったし。」

「でも僕じゃない。」

「じゃあ今あんたの部屋にあるのは何よ?」

「はぁ?」

弟と部屋を確認しに行きましたが、置いたはずの革靴はどこにもありません。

「あ、あれ?」

「無いじゃん。」

「いや確かにここに・・・。」

「仕事疲れで寝ぼけてたんじゃないの?」

「う、う~ん・・・。」

革靴がない以上、弟の言う通りかもしれない。

けど、確かにおいた。その記憶だけが私には明瞭にありました。

納得のいかないままに父の墓についた私はお墓を掃除し、お線香をあげて、手を合わせました。

「・・・ごめんねお父さん。お墓参りに来れなくて。」

「・・・もしかしたらあんたのことを呼んでいたのかもしれないね!」

「私を?お父さんが?」

「家にある男物の革靴なんてお父さんのぐらいよ!やりくりして溜めたお金でカッコいい革靴を買ってね!あんたの入学式に履いて行くんだって言ってたわ!」

「そう・・・なんだ。」

私がお墓参りに来ないことを寂しがった父が、私に見せた幻。

母に言われてそうなんだって思うと、どことなくそんな気もしてきました。

「本当にごめんねお父さん。今度はさ、ちゃんと毎年来るから!」


父の墓参りから帰ると、玄関にあの革靴が置かれていました。

「ここにあったんだ。へへ。お父さんも一緒に帰ってきたのかな。」

「これかぁ。まったく人騒がせな父親だな。」

「ふふ。」

笑いあう私たちとは対照的に青ざめる母の顔。

わなわなと震える手で扉に手をかける。

「どうしたのお母さん?」

「違う。」

「え?何が違うの?」

「お父さんのじゃない!こ、こ、これは違う人のだ!」

「え?でもお母さんがお父さんしか革靴は持っていなかったって・・・。」

「お父さんの革靴は!このじゃない!」

母の尋常じゃない悲鳴じみた声に私も弟もその革靴から離れ、家を飛び出しました。

幸い、近くに弟の家があったのでそこに避難しました。

「どういうことだよ!?父さんのじゃないって!?」

「お父さんは黒の革靴をカッコいいって言って買ったんだよ!茶色じゃない!茶色い男物革靴なんて家に無いよ!」

母の言葉で私はあることを思い出しました。

あの革靴、ゴミ置き場にあったようなっと。

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