第186話 尾口先生の意味が分かると怖い話3
親子参観日。この日が私を狂わしました。
「は~い。今日はみんなの発表会にママやパパが来てくれました!みんな!一生懸命に考えた作文をママやパパに聴いてもらいましょうね!」
「「「「はーい!!!!」」」」
「ではまずは・・・。」
皆が発表していく内容はとても可愛らしくて、みんながみんな、ママが大好きっていう気持ちが伝わってきたのです。
そして息子の番になったのです。
「じゃあ次はA君。」
「あい。」
息子が一生懸命に考えた作文。
タイトルは“大好きな人”。
私は自分のことが書かれていると、期待してしまったのです。
「ぼうのすいないと。ぼうのすいなひとは、おおうさんです。おおうさんはまいにち、おおくまでおしおとをがんばっえくれあす。おおうさんはおしおといがいいもがんばっえくれます。おやすみおひにはあおんでくれあす。おそういもしてうれあす。ごあんもつくっえくれあす。ごあんはおああさんよりもおいしいえす。だから、ぼうはおおうさんがだいうきえす!
(僕の好きな人。僕の好きな人は、お父さんです。お父さんは毎日、遅くまでお仕事を頑張ってくれます。お父さんはお仕事以外にも頑張ってくれます。お休みの日には遊んでくれます。お掃除もしてくれます。ご飯も作ってくれます。ご飯はお母さんよりも美味しいです。だから僕はお父さんが大好きです!)」
満足そうに読み終えた息子に贈られる拍手。
拙いながらも最後まで読み終えた息子に周りからは温かいまなざしが集まっています。
私を除いて。
あの日を境に私の心境はがらりと変わりました。
そして今日、私はついにやってしまったのです。
「こっちがA君ので、こっちがお父さんのね。」
「な、なぁ。」
「うん?なぁに?」
「本当に行かないのか?Aだって一緒の方が・・・。」
「うん、ごめんね。体調がすぐれないの。」
「そ、そうか。無理するなよ。」
ピクニックに行った主人と息子。
・・・けど、その日は誰も帰ってこなかった。
私の予想に反して。
「以上だよ。どうだい?どうだい?」
おおう。なかなかの落差だな。
けどこれはわかりやすいな。
「さぁさぁ!どういうことかな?」
このテンションの高さが若干ウザイな。
「これは母親が息子を殺そうとしたのに間違って父親を殺してしまったってことですか?」
「お!鋭いねぇ。その通りだよ優君。順風満帆だった母親は当然、息子の一番は自分だと思っていた。けど、息子の口から出た一番は父親だった。全く育児をしていなかったのに。おまけに自分よりも父親の方が優れていると言われてしまった。言い換えれば母親は息子に裏切られたような形さ。それが犯行に及んでしまった。けど、父親は間違って息子のお弁当を食べて亡くなり、帰れなくなった息子も父親の後を追うようにもしかしたら亡くなったのかもしれないというお話しさ。」
愛憎は表裏一体とはよく言ったものだなぁ。
けどこれって・・・。
「うん、これは不採用にしたほうが良いですよ。」
「え?何でだい?」
「だってこの話を聞いて結婚したいって思えます?僕は結婚という幻想が打ち砕かれるだけだと思いますけど?」
「た、確かに・・・う~ん・・・。結構いい話だと思うんだけどなぁ。」
尾口先生の結婚はまだまだ先になりそうだな。
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