第177話 柑奈さんの怖い話~先輩の見ていたもの後編~
「俺はどうすればいいんでしょうか。」
「う~ん・・・そうだなぁ。」
あまりにも現実離れした話です。
流石の私もすぐには信用できませんでした。
けれど、社長は違いました。
先輩の憔悴しきった様子、これまでの先輩との信頼関係。
何よりも社長は以前に聞いた不動産屋の話を思い出していたそうです。
「君はむやみやたらに人を怖がらせるような男じゃないことは僕が一番理解している。君が見たという男は本当なのだろう。」
「社長・・・。」
「どうだろうか。君はこのままで仕事を続けて行けそうかい?」
「それは・・・。」
社長に弱さを見せないようにしている先輩は酷く無理をしているみたいで、見ていられませんでした。
「先輩!」
「ん?」
「先輩は、弱さを見せてもいいんです!苦しい時は無理しなくていいんです!」
「A・・・。」
「Aさんの言う通りだ。君が無理だと言うなら・・・。」
「申し訳ありません社長。俺にはあの場所で続けることは・・・できそうにありません。」
「そうか。なら!社長としてやるべきことをしようかね。」
先輩の話を聞いた後、社長はすぐさま事務所を移転することを決めました。
社員の中には文句を言う人も言いましたが、社長は笑顔で黙らせていました。
その後、私は先輩と結婚をして退職しました。
今では毎日笑顔で先輩は仕事に向かっています。
あの時の出来事を忘れたわけではありません。
先輩が見ていた男が何だったのかは今でもわからないし、先輩に何を言っていたのかもわかりません。
先輩自身も調べはしましたが、ビルには自殺した人はおらず、それどころか先輩以外に男性の姿を見たという人もいなませんでした。
あの男性は何だったのでしょうか?
何を先輩に言いたかったのでしょうか?
今でも、あの男性は天気が良い日にあのビルから飛び降りているのでしょうか?
私にはわかりません。
「と、言うのがこの前来た人から聞いた話よ。どうよ?」
「なかなかに刺激的な話しだったよ柑奈。とても興味深い。」
「ご満足頂けたかしら?」
「ああ。やはり私の求める怖い話を難なく話せるのは柑奈、君だけだな。」
「な、何よ急に!?ほ、褒めたって何も出ないわよ!?」
「謙遜するな柑奈。私は素直に君を認めているんだぞ?少しは喜んではどうだい?」
「う、うるさいわよ!」
尾口先生から逃げてきて見れば何なのこの雰囲気?
部室に入るに入れないんだけど?
「し、式子だって!いつも私に刺激的な話をして、く、くれるじゃない!その、感謝してるわ!」
「ふふ。光栄だよ柑奈。」
・・・この世界を壊してはいけない。
僕は静かに、この場を後にさせて頂こう。
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