第175話 柑奈さんの怖い話~先輩の見ていたもの中編その2~

「よろしくねAさん。」

「はい!よろしくお願いします!」

先輩の教え方はとても丁寧で、根気強く、私がいくらミスをしても先輩がフォローしてくれました。

「ごめんなさい先輩。私のせいで・・・。」

「気にしないことだ。後輩のミスは先輩が何とかする。それが、社長の言葉だ。だからAさんも来年から入ってくる後輩がミスをしたら怒らずに、一緒に考えてあげてくれ。もしダメだったらまた俺に言えよ。俺はいつまでもお前の先輩だからな。」

笑顔のまぶしい先輩に私はすぐに恋に落ちました。

それからはいつも先輩のことを考えていたせいで、時間を見つけては先輩を見ていたんです。

そして初めて気づいたんです。

先輩の様子がおかしくなっていることに。

それは私が二年目の春頃です。

私の目線の先の席、昇進した先輩は広い窓際で働いていました。

最初こそ先輩は仕事に熱心で私の目にはかっこよく映っていたのですが、ある日を境に先輩の様子が少しずつおかしくなっていったんです。

「先輩?」

「ん?あ、ああ。仕事は終わったのか?」

「あ、はい。」

「確認をしておくから今日は帰っていいぞ。」

「あの先輩。」

「ん?なんだ?」

「・・・いえ、何でもありません。」

私は先輩に言おうと思いましたが、気のせいかもしれないと思い、何も言えませんでした。


私たちの会社のあったビルは12階建てで、その7階に事務所がありました。

事務所の窓はかなり大きく、窓際は日当たりがとてもよくってポカポカとして眠気を誘われる社員も少なくありませんでした。


ビクッ。


だから遠巻きに見ていた私は。先輩が疲れから居眠りをしているようにも見えたのです。

私も学生の頃、授業中に眠っていると体がビクッとなることがあったので、あの現象だろうと思っていたんです。

「先輩。」

「んお!?何だA?」

「仕事中に居眠りですか?」

「え?あ、いや。あははは。」

「先輩も働きすぎで疲れているんですよ。偶にはお休みになられないと。」

「ああ・・・だな。」

「あ、あの!こ、こ、今晩!?飲みに行きませんか!せ、先輩と、その、もっと話したいなぁって・・・。」

「・・・ああ。」

「い、いいんですか!?」

「ん?あ、ああ。」

「じゃ、じゃあ今晩で。」

「あ、ああ。」

先輩と食事に行ける嬉しさで私は先輩が大変なことになっていることに気づくのが遅くなってしまいました。


あれからしばらく先輩はビクッとなることが多くなりました。

先輩を毎日のように見ていた私は、どう見ても先輩が毎日居眠りをしているとは思えず、何よりビクッと体が動いてからは決まって窓から下を眺めるという行動を繰り返していたのです。

そしてその行動は決まって天気のいい日にしか起こらなかったんです。


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