第174話 柑奈さんの怖い話~先輩が見ていたもの中編その1~

秋は繁忙期から外れていたお蔭で、探しだしてすぐに希望通りの物件があると連絡があり、すぐさま下見に行ったそうです。

「こちらなんていかがでしょうか?」

「ふむ。」

紹介された物件は事業拡大をするにしては少し狭い気もしたが、建物の新しさと利便性の高さは理想的。

「どうかね?」

「自分は良いと思いますよ。何より景色がいいじゃないですか。」

社長が不動産屋に提示した値段は相場より少し安く、余裕で予算の範囲内でもあったので契約をすることにして話を進めたそうです。

社長と先輩は物件について詳しい話を聞いたが、不審な所はほとんどなかった。

けど、一点だけ気になる事があったらしい。

「あれほどの優良物件、以前に入っていた企業はどうしたのですか?」

「ああ。それですか。実は・・・。」

以前そのテナントに入っていた人たちの事を不動産屋は愚痴のように簡単に話してくれました。

前にテナントで入っていた企業は最初こそ問題がなかったものの、半年もせずに突然逃げるようにテナント契約の解除を求め、荷物もほとんど持っていかずに出て行ったらしいのです。

「入ってきた時もね、荷物は本当に最小限ぐらいしかなくってさ。おまけに移転作業もかなり雑ときた。ま、荷物を処分するのには楽だったけどね。」

その後も契約はほぼ確定して口が軽くなっていたのか、よくある苦労話をかなり話してくれたらしい。

今となっては笑い話と、社長に話していたそうです。

先輩もその程度に聞いていたそうですが、その話に少し興味を持った社長は実は問題のある物件なのではないかと尋ねたそうですが、不動産屋は慣れた様子で否定をしたそうです。

この物件にまつわる不審な話は無かったけど、念には念を入れよと、テナントが空いた時に社長はお祓いも済ませたそうです。

オカルトには一切興味のない社長だったけど、心理的瑕疵物件だったら値切ってやるつもりだったと、後に話してくれました。

物件自体は既に気に入っていたためすぐ事務所の移転を決めてもいたそうです。

年明けには事務所を移転する準備をはじめ、年度末前には新しい事務所に移転を終えることができたそうです。

キレイな設備はもちろん交通の便もが良くなったことで通勤時間も大幅に減り、社員たちは快適に仕事が出来る事を喜んだそうです。


それからすぐに私が入社したそうです。

「今年から我が社に入ってくれたAさんだ。」

「Aです。皆さんに追いつけるように頑張りますので、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします!」

「今年は新入社員がAさん一人だけだから、みんな仲良くするように。教育係は・・・先輩、お前がやれ。」

「はい!」

それが私と先輩の出会いでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る