第173話 柑奈さんの怖い話~先輩の見ていたもの前編~

「・・・暇ね。」

「ああ。」

「優はどうしたの?あいつが部活休むなんてあんまないじゃん?式子は何か知らないの?」

「優君なら尾口先生に連れていかれたよ。」

「・・・え?あいつ何かやらかしたの?」

「いいや。優君の話しでは尾口先生の愚痴に付き合うそうだ。まったく、優君は優しすぎる。」

「ほんとよね~。・・・ま、その優しさがいいんだけど。」

「柑奈にしてはいい事を言ったな。」

「一言余計よ。」

「・・・。」

「・・・。」

「ねぇ。」

「何だ今度は?」

「何か話してよ。暇すぎて死んじゃうわ。」

「はぁ~。私はお前が暇じゃないんだが?」

「何してるのよ?」

「・・・読書。」

「・・・暇人じゃん。」

「・・・。」

「・・・。」

「というよりも柑奈は無いのか?」

「何がよ?」

「話したいことや、やりたいことなどだ。」

「ん~・・・怖い話でもする?」

「ほぉ。柑奈にまだ怖い話が残っているとはな。」

「あんたね・・・一年間だけで話しつくせるほど私のストックは甘くないの。てか、その一年間の半分以上をあんたが話してたんだけど?」

「有能な私はストック切れという恐ろしい事態になることは無いんだよ。」

「あっそ。んで?聞くの?」

「是非とも聞かせて欲しいね。」

「いいわ。聞かせあげる。これはこの前私の家にお祓いに来た女性から聞いた話よ・・・。」


私が働いていた広告代理店は、勤務地は田舎の方で、けれど出来たばかりの小さな綺麗なビルでした。

その会社が事務所として使いだした当時でも築5年程度と聞きました。


今のビルに移転する前は、ボロ事務所で夏は冷房が効かない。

おまけに冬は隙間風の寒さに悩まされながらも働いていたそうです。

お酒の席で聞いた話だと、取引先に行くたびにきれいな建物や清潔なトイレ、快適な暖冷房、エレベーターに憧れたんだと、笑って言っていました。

しかし不満はなかったそうで、少人数の会社らしく社内はアットホームな環境なので社員の意見はダイレクトに社長へ伝わり、社長自らが相談に乗ってくれたそうです。

今でも時間を見つけては社長は社員の話を聞いてくれます。

そんな時、丁度仕事も増えてきて事業拡大を計画した社長は事務所の移転を考え始めたそうです。

「うちの会社も、そろそろデカくする時が来たんだと思うんだが、どう思う?」

「良いと思います。自分も仕事が多くなってきたので、せめて冷房ぐらいは欲しいですね。夏が厳しいんですよ。」

「ハハハ。では、一緒に探してくれるかい?」

「はい!社長。」

先輩と社長が引越の為に物件を探しだしたのは秋だったそうです。

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