第154話 式子さんの怖い話~旅館の求人中編その2~
「おはようございます。旅館の者ですが、Aさんでしょうか?」
「はい。今から出発するところです。」
「わかりました。駅につき次第、ご連絡ください。迎えに行きますので。」
「ありがとうございます。」
「あの、体調が悪いのですか?失礼ですが声が元気ないような・・・。」
「あ、すみません!寝起きなので!?」
「ご無理なさらずに。当旅館についたらまずは温泉などつかって頂いて構いませんよ。初日はゆっくりとしててください。平日はそこまで忙しくはありませんので。」
「あ、ありがとうございます。」
電話をきって家を出て、歩きながら思う。
あんなに親切で優しい電話、それに気遣い。
心底ありがたかった。
けど、電話を切ってから今度は変な寒気がしてきました。
ドアをあけると太陽の光に眩暈がしました。
「と、とりあえず、駅に着けば・・・。」
私はすれ違う人たちが振りかえるほどにフラフラでした。
やがて雨が降り出し、傘を持っていない私は駅まで傘なしで濡れながら歩きました。
そのせいなのか、激しい咳が出始めました。
「ゴホッゴホッ。旅館で休みたい・・・。」
私はびしょぬれで駅に辿りつき、切符を買おうとして驚きました。
自分の手がカサカサになっていたのです。
濡れているが肌はひび割れ、まるで老人のようでした。
「何これ?変な病気?・・・旅館まで無事つければいいけど。」
私は手すりにすがるようにして足を支えて階段を上り、電車が来るまで時間をベンチに倒れるように座りこみ待ちました。
声が枯れ、手足は痺れ、激しい波のように頭痛が押し寄せる。
咳をすると足元にぽたぽたと。
ハンカチで口を拭うと、血がベットリ。
私は霞む目でホームを見ていた。
「はやく・・・旅館へ・・・。」
やがて電車が轟音をたててホームに、ドアがゆっくりと開く。
乗り降りする人々を見ながら、私はようやく腰を上げた。
「腰も痛い・・・。」
フラフラと乗降口に向かい歩く。
体中が痛むが、あの電車に乗ればまた休める。
乗降口に手をかけたとき、中から鬼のような顔をした老婆が私に突進してきました。
「いったぁ・・・。何すんの!」
「たわけ!そんな体でどこ行くんだい!死ぬ気か!」
「はぁ!?私はこれからバイトに行くのよ!」
「だからたわけだと言っておるじゃろ!死にたいのか!」
「何でよ!」
「お主、自分の姿が見えていないのか!」
「・・・え?」
「お主は、魅了されてる。」
騒ぎを聞きつけた駅員が駆け付けた時には、老婆はおとなしくなっていた。
結局その日、私は旅館に行けませんでした。
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