第143話 柑奈さんの怖い話~赤い飴玉中編その1~

「その、今年もいるのでしょうか?」

「・・・主人はそう見ています。今年も必ずいると。」

「そう、ですか。・・・やっぱり今からでも!」

「先生。それは返って刺激を与えることになります。また、ルールを変えることもです。ですので、子供たちに徹底して守っていただくしかないのです。」

「ですが!」

「先生の気持ちは親として深く理解しているつもりです。わたくし自身、娘を危険に晒したいとは思いません。ですが、今は主人を信じるしかありません。」

ママの毅然な態度に、おばちゃん先生はそれ以上何も言わなかったわ。

それからあたしは不思議な人を見るようになったのよ。


あれは、秋のお祭りが始まる少し前だったかしら。

外での遊びの時間に、園の外に立っている女の人を見るようになったのよ。

初めは誰かの親かな?って思ってたけど、今思い返せば先生の誰もが彼女を気にしないのは変だったのよねぇ。

「どうしたのかんなちゃん?」

「ん?んっとね、あそこにおんなのひとがいるの。」

「どこどこ?」

「ほらあそこ!」

「ほんとだ!だれかのママかな?」

「きっとそうじゃないかな?」

「せんせいにいう?」

「ん~べつにいいんじゃない?ふしんしゃじゃないし。」

「じゃあ!おままごとしよう!」

「うん!」

秋のお祭りが始まるまで毎日同じ時間に彼女は立っていたわ。

そして、何事もなく秋のお祭りが始まったの。


「みなさん!最後にもう一度注意事項を確認しましょう!」

おばちゃん先生は念入りだったわ。

何度も何度も言い聞かせるように注意事項を聞かされたのよ。

「いいですねみなさん?」

「「「はーい!!!」」」

「さて、今年皆さんは5歳になりました。まだお誕生日を迎えていない子もいますが、恒例の肝試しをします。」

あたしが通っていた幼稚園には不思議な伝統があったの。

それが“肝試し”。

5歳になった子供に、保護者が作ったお化け屋敷を一人で通ってもらうというものよ。

正直怖かったけど、一番不安に思っていたのはおばちゃん先生だったわ。

「つぎ、のんちゃんのばんだね。」

「ううぅ。わたし、おばけやしきいやだぁ。」

「なかないでのんちゃん!もし、まよっていてもつぎはあたしだから!かならずみつけてあげる!」

「かんなちゃん・・・うん!わたしがんばる!」

勇気を振り絞ったのんちゃんが入って行った後、あの糞親父があたしのところにやってきたのよ。

「パパ?」

「柑奈たん。良ーく聞きなさい。これはとても大切なことだからね。」

いつもふざけたような笑顔だった糞親父の真面目な顔をあたしはこの時、初めて見たのよ。

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