第113話 学校の怪談~その10~

「さぁさぁいよいよ学校の怪談も折り返し地点ですよ!」

残り三つか。

さて、どんな話なんだろう。

「五つ目はね、『嘆きのヴィーナス』だよ。」

ヴィーナスと言えば美術室のあれか?」

「そのヴィーナスって美術室のっすか?」

「そうそう!そのヴィーナス!彼女はなんと涙を流すみたいだよ。」

「涙をですか?」

「うん!これは去年卒業した先輩に聞いた話なんだけどね・・・。」


Aさんは美術部員で今年最後のコンクールに向けて自分の納得できる絵を模索していました。

「ん~やっぱ風景画かな。」

「いいんじゃない?あんまり悩み過ぎても時間がもったいないし。」

「だよね。じゃあどこの風景を描こうかなぁ。」

「あそこの山は?」

「あそこ?う~んいまいちかな。」

「じゃあ・・・湖とか?」

「う~ん・・・。」

「Aはどういう風景を描きたいとかないの?」

「これがさっぱりなんだよねぇ。なんというか、こう、私が描きたいって思えるような場所はないかなぁ。」

「そんな感覚的なことを言われても・・・!そうだ!美術室から見える校庭なんてどう?」

「美術室から?」

「うん!最後のコンクールだし、やっぱり記憶に残るような作品がいいんじゃないのかなって。」

「なるほど・・・うん、いいかも。うん!私そうするよ!美術室を描くよ!」

「よーし!そうと決まれば私は応援するのみだ!」

「いや、あんたも描きなさいよ。」

仲良しの友達と話し合って決めた美術室の絵を描くために、Aさんは毎日遅くまで残って描き続けました。

何度も何度も描いては納得がいかない日々。

いつしかそれがストレスとなっていたAさんは愚痴を聞いてもらう話し相手をミロのヴィーナスに求めていました。

「ん~今日もいまいちだよ。」

「・・・。」

「どうすれば納得のいく絵が描けるかなぁ。」

「・・・。」

「それとも私には才能が無いのかなぁ。」

「・・・。」

「ねぇ、どう思うヴィーナス?」

「・・・。」

「ふふ。だよね。うん、描き続けなくちゃ納得できるものなんて描けないよね。よし!頑張ろ!」

「・・・。」

「見ててよヴィーナス!私、絶対にコンクールで入賞するから!」

Aさんは描き続け、遂に自分の納得のいく絵が描けました。

そしコンクールの日、Aさんは見事に入賞しました。

「よく頑張ったなA。」

「すごいじゃん!」

「うん!」

皆から祝福を一身に受け、Aさんは心の底から喜びました。

この喜びをヴィーナスにも伝えたい。

その思いがAさんを突き動かし、日曜日にも関わらず、Aさんは美術室に向かったのです。

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