320話 ミレーヌの執務室にて
<激闘! うさ追い祭り₍ᐢ。 ˬ 。ᐢ₎ その4>
<午前1時40分 ふれあいの森どうぶつ王国近くの道を走る馬車の中>
㋐「午前1時40分になりましたな」
㋞「アキさんから、もうヤマネコはいいって、あの子に言いなさいよ!」
㋐「ノエミンソンちゃんは、私達にリスも見せたかったんだよ?」
㋞「リスってアナタ… こんなに生息地を巡ったのに、ヤマネコどころか野生動物を一匹も見ていないじゃない!」
<午前2時00分 ふれあいの森どうぶつ王国近くの道を走る馬車の中>
㋐「いやー、深夜2時となりましたな」
㋞「さっきの生息地で、『もう、いいんじゃない?』って、言ってみたんだけどね…」
㋐「言っていたね、どうだったの?」
㋞「あの子、基本ジト目で無表情だから、パッと見は解らないけど、寂しそうな感じは出していたわよ」
㋐「それで、この後誘き出すための餌となる小魚を追うって言っていたんだね」
㋞「小魚って…」
㋐「いや、私はみたいよ」
㋞「メガネ先輩が見たいのは小魚じゃなくて、小魚を追う私達でしょうが!」
流石に皆が限界にきたので、この後帰って眠る事になった。
#########
その頃、アルトンの街の行政府―
紫音達が午後からオーガと激闘を繰り広げていた頃、ミレーヌに呼び出されたユーウェインとクリスが行政府に来ていた。
二人は偶然ロビーで鉢合わせると執務室に向かうまで、今回呼び出されたのがユーウェインとスギハラではなくクリスであることから、クナーベン・リーベに関することではないかと会話しながら推察する。
執務室の前の廊下まで来ると、ミレーヌの秘書であるエルフリーデ・ツィエンテクことエルフィが、お茶のセットを載せたお盆を持ったまま悲愴な表情でオロオロとしていた。
「セルフィさん、どうしたの?」
「クリスさん、ユーウェイン様、いい所に~!」
セルフィのただならぬ表情を見かねたクリスが、彼女に声を掛けると泣きそうな顔でクリスに近づいて来て、どうしてこんな所で立ち往生しているのか説明を始める。
「実は半時前に、パロムの村から薬品を運んできたという冒険者の方が来られまして……」
(おお、遂に来たか! これで、こっちから打って出る事もできるな…)
彼女のその言葉を聞いたユーウェインは、エルフィの会話の邪魔にならないように心の中で喜びの声をあげた後に今後の方針を考えはじめる。
「その冒険者さんが、今部屋の中におられるのです…… 」
「怖そうな人なの?」
「いえ、むしろ爽やかな笑顔が似合う素敵な方です~」
室内にいる冒険者がよほどの好青年なのか、エルフィが珍しく黄色い声をあげてしまう。
「では、どうして室内に入ることを躊躇しているの?」
「だって、ミレーヌ様がアポ無しの冒険者に会う事事態が珍しいのに、更にその方にあった時に”あの”<傍若無人><慇懃無礼>のミレーヌ様が、自ら頭を下げたんですよ!? きっと、凄く偉い人に違いないです! そんな方にこのお茶をお出しする時に、もし粗相を働いてしまったらと考えると怖くて… 怖くて……」
そう言ったエルフィの表情は、恐怖と絶望で青ざめ体は震えており、クリスは彼女の言いたいことを察して自らこのように申し出ることにする。
「エルフィさん。よければ私が代わりに、このお茶を室内に運んで、給仕しましょうか?」
「本当ですか!!? ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」
クリスの申し出を聞いたエルフィは、緊張とプレッシャーに解放され嬉し涙を目に溜めた満面の笑顔で、救世主に感謝を述べ続けた。
(まあ、あのミレーヌ様が自ら頭を下げる人物といえば、相当な人物ではあるわね。老練な大臣クラスか王族か… )
ミレーヌが礼を尽くすのは、王族か自分が尊敬する人物だけであり、その事からも中の人物はかなりの大物であることがわかる。
お盆を持ったクリスの代わりに、ユーウェインが部屋の扉をノックすると中から入室を許可する声が掛けられたので、二人は扉を開けて一礼してから入室した。すると、室内に設置されたソファーにミレーヌと対面には件の冒険者と思われる金髪の若い青年が座っている。
「ユーウェイン・カムラード参上しました」
「クリスティーナ・スウィンフォード参りました」
「二人共、わざわざご苦労。まあ、座ってくれ」
「失礼します」
ミレーヌに促されたユーウェインが、金髪の青年の横に座ろうと移動すると、その正体に気づいた彼は青年の方に向き、背筋を伸ばして直立不動になると自ら頭を下げた。
「ルーク陛下!? これは挨拶が遅れました! ご無礼をお許しください!」
(ルーク陛下!? 現国王のルーク・アースライト陛下なの?!)
クリスも慌てて、お盆をエルフィの仕事机の上に置くと、ルークに向かって一礼する。
「カムラード殿にスウィンフォードさんも頭を上げてください。私は貧乏貴族の三男坊で、冒険者のルーカス・アシュフィールドなのですから。そのような堅苦しい態度はやめてください」
「だそうだ。カムラードもクリス君も気にせず座りたまえ」
「では、失礼します」
促されたユーウェインは、ぎこちない感じでルークの横に座る。
「私は座る前に、お茶をお入れいたします」
「クリス君、すまないな。エルフィのヤツは、プレッシャーに弱い所があってな。困ったものだ……」
どうやら、廊下での話は室内の彼女達に聞こえていたようで、ミレーヌは呆れた感じでそう言うとクリスにお礼の言葉をかけた。
「いえ、お気になさらずに」
お盆をエルフィの仕事机の上に置くと、クリスは手慣れた感じで紅茶を入れ始め、ソファーの中央に設置されているおしゃれな机の上に紅茶を置いていく。
「クリス君、ありがとう」
クリスが全員のお茶を入れ終えミレーヌの隣に座ると、ユーウェインがルークに話しかける。
「しかし、まさか陛下― ルーカス殿が薬品の護衛をしていたとは……」
「パルムの村で気骨のある親方が、組合の圧力に屈せず薬品造りを続けていると聞き悪党共の妨害が入ると考えて、様子を見に行ったのだ」
ルークは村での領主達との一件を語り始める。
「何と無茶な真似を! 陛下に万が一のことがあれば、せっかく改革されたこの国は元に戻ってしまいます! どうか、無理はなさらないように!」
「私にはこれがあるから、君やスギハラ、ミレーヌ殿のようなS級以外に遅れは取らないさ」
ユーウェインの心配に、ルークはソファーに立て掛けている女神武器<ランページキング>を見ながらそう言うがユーウェインが自重を促してくるので、彼はこのようなことを言って彼を説得してきた。
「それに女神様が私にこの女神武器が授けられたのは、私自身に<この武器を振るって国民を助けよ>と言っていると私は思っているのだ。そして、それは王としての私の義務でもある。だから、私はその女神様の意思と王の義務のためにも戦い続けるつもりだ」
「陛下… 」
すっかり、貧乏貴族の三男坊の設定を忘れて、熱く語り合う二人。
「まあ、その話はそこまでにして、君達二人を呼び寄せた用件に移ろうか」
ミレーヌが長くなりそうなので、話題を変えるために自分が呼び出した用件に会話を移行させる。
「私は席を外したほうがいいかな?」
「いえ、陛下も一緒に聞いてください。それに、今陛下が部屋の外に出ると廊下にいるシルフィが卒倒するかもしれませんから」
退出しようとするルークに、ミレーヌが秘書への気遣いを見せながら、そう言って呼び止めた。
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