293話 淑女奮闘する




 前回のあらすじ


「クオン、お前は俺が守ってやる」

「アリーシス…」


 アリーシスは剣を抜いて、クオンとリザードの間に立ちはだかるとそう言って、手に持った剣を構える。


「アリーシス様、先輩は俺が守るんだぜ」

「ソーフイ…」


 そこにソーフイが現れ、同じくクオンの前に立ち、両手に1本ずつブレードを持って構える。


「クオンさんは… 僕が守ります…」


 あのいつも大人しいミリオが、ロッドを構えてクオン争奪戦に参加してくる。


 三人の男達のうち、果たしてクオンと今夜”くんぐほぐれつ”するのは誰なのか!

 もちろんクオン総受けの全員とだ!!



「『もちろんクオン総受けの全員とだ!!』じゃないよ! 何を前回の会話シーンを登場人物全員TS化した挙げ句に、会話内容もBL化させているの! あと、ミリオちゃんは登場させないで!」


 紫音はアキの腐った話にツッコミを入れるついでに、ミリアのTSキャラを出さないようにお願いする。


 何故ならば、このことがミレーヌにでも伝わったら、アキは当然として監督不行として、自分もアイアンクローを受ける事になるかもしれない。


 アキがアイアンクローを受けるのは、自業自得で同情の余地はない。むしろいつも意地悪してくるアキにはアイアンクローを受けて、日々の行動を反省して欲しいという気持ちすらある。


 だが、自分までシワ寄せを受けるのは、たまったものではない。


「というか… 戦闘中によくそんな妄想ができるわね。逆に感心するわ、称賛はしないけどね!!」


 ソフィーは呆れた表情で、皮肉を込めてそう突っ込んだが


「フフフ… 私ほどの腐女子になれば、戦闘中でも余裕で脳内変換できるのさ!」


 アキはソフィーの皮肉に対して、ドヤ顔プラスむしろ誇らしい感じでそう返事をするのであった。




 えっ? 前回の本当のあらすじ?


 百合好きの残念美人レイチェルが、紫音達のキャッキャウフフを近くで見たいという欲望のままに、女神武器の特殊能力を発動させたよ。



 ######


「はあぁぁぁ!」


 レイチェルはオーラを刃に込めたゲイパラシュを振り上げると、キューバに向けて袈裟に振り下ろす。だが、キューバは自身に左斜上から迫る刃に、左手に持った盾で攻撃を防ごうと構える。


 彼の計算では、レイチェルのこの攻撃を先程もこの方法で体勢を崩したので盾で防ぐ選択肢をした。


 だが、レイチェルは振り下ろしながらゲイパラシュの軌道を袈裟から、唐竹に変更すると斧刃の対称に付いている鉤爪からオーラを噴出させて、斬撃スピードを加速させキューバの頭上に真っ直ぐに叩きつけるように振り下ろす。


「アクセルブレイクスマッシュ!!」


 斬撃速度が加速して、威力の増したオーラの戦斧は盾を持った腕ごと切断するが、盾と接触した時に、少しずれてしまい戦斧はキューバの頭からずれて左肩に深く刺さる。


 キューバは大ダメージを負ったが、戦意はまだ消失しておらず残った右腕を振り上げて、レイチェルに反撃をしてくるが、彼女は動じていない。


 その理由は、信頼する戦友が放つハイオーラアローが、前回と同じようにその右腕に命中して、攻撃を遅延してくれるからである。


 だが、キューバは本能的にすぐさま鋭い牙によるカミツキ攻撃を繰り出す。


「!?」


 流石のレイチェルも間髪入れない噛みつき攻撃には、焦り慌ててゲイパラシュを引き抜こうとする。


 リディアもハイオーラアローの次射を急ぐが間に合わず、レイチェルはゲイパラシュを手放して後ろに跳躍しようとした時、迫るキューバの頭に大きな魔法の矢が命中して、噛みつき攻撃を中断させた。


 その大きな魔法の矢は、リズがGRファミリア6本から発射させた魔法の矢を、一本に収束させたもので、普通の魔物なら頭が消し飛ぶ程の威力があり、それが頭に命中したキューバは、噛みつき攻撃を妨害されただけではなく体勢も崩してしまう。


 この絶好のチャンスをレイチェルは見逃さずに、ゲイパラシュを掴むと戦斧からオーラを噴出させて、キューバの左肩から素早く引き抜くとゲイパラシュを脇構えに構え、体を後ろまで横に捻る。


 そして、全身の筋肉とバネを使って、勢いよく正面まで振り向きながら、両手で持ったオーラを溜めたゲイパラシュを腰の高さから袈裟斬りの位置まで振り上げると、鉤爪からオーラを噴出させ、右足を前に力強く踏み込み袈裟斬りで勢いよく振り下ろす。


 全身のバネと筋肉を使った体の捻り―

 鉤爪からオーラを噴出して加速させた斬撃速度―

 オーラの溜まった戦斧とその重さ―


 その全てが乗った渾身の一撃は、キューバの鱗で覆われた屈強な体を左肩から右の脇腹まで見事に切断すると、ゲイパラシュは勢いのまま地面に刺さる。


「グォォォォ!!」


 体を真っ二つにされたキューバは、最後に断末魔の叫びをあげると魔石へと姿を変えた。


 レイチェルは大きく深呼吸をして、呼吸を整えるとリディアとリズの方を向いて、感謝を込めて手を挙げると、リディアは同じく手を挙げリズは親指を立てて返答してくる。


 そして、三人は歩きだして集合すると薬品を飲みながら話し合う。


「リズ君、よく救援に来てくれた。おかげで助かったよ」


「後衛に消耗した魔力を回復しに行こうと思っていたら、たまたま視界に入ったッス。でも、これで魔力が尽きたので、自分は回復するために後方に向かうッス」


「そうね、それがいいわ」


 リディアが妹に安全な後方で回復する事を賛成すると、薬品を一本飲み終えたリズは後方に向かって歩き始める。


「では、私も消費したオーラを回復するために、一緒に後方に…」

(そして、キャッキャウフフを!!)


 リズの後を自然な感じで、追いかけようとするレイチェルの肩をリディアは力強く鷲掴みして制止させる。


「何を言っているの? アナタはこれから女神武器の特殊能力が切れるまで、他の副官への救援でしょう?」


 そう言ったリディアは、笑みを浮かべてはいるが、目は笑っていない。


 彼女は戦友の真意を看破しており、それを悟ったレイチェルはキャッキャウフフを諦めるしか無かった。


 何故ならば、この生真面目なリディアに今更嘘だと言えば、矢で射たれてしまうかもしれないからである。



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