292話 リザード副官撃破戦 その1




 前回のあらすじ


「アフラ、私はもう悲しまないわ。アナタみたいな娘を増やさせないためにリザードを叩く。徹底的にね!」


「アフラちゃんは死んでないよ!?」

「はにゃ?」


 ########


「首をおいて― 落とせ、ズゴーレム!」


 アキのズゴーレムが、<妖怪首おいていけ>の如くヒュドラの首を落としていた頃、レイチェルはリザード軍副官のキューバと激戦を繰り広げている。


 だが、彼女には少し気になる事があり、その事で戦いに集中できずにいた。


 その理由とは…


「シオン様、わたくしリザードが怖いです~」


 アリシアは先程のアキに負けた事への優位を得ようと、紫音の右腕を両手で掴んで<か弱いお姫様>を演じて甘えていた。


「アリシアはソフィーちゃんが護衛しているから大丈夫だよ。だから、必要以上にくっつかないでよ」


 頼られるのは吝かではないが、正直鬱陶しいので紫音はその掴まれている右腕をブンブンと振って振り解こうとするが、アリシアは腕を掴んだままこう反論してくる。


「だって、昨晩シオン様は、わたくしを守ってくれると言ったではないですか!」


「私は<できるだけアリシアや”みんな”を守る>って言ったんだよ。それに右腕を捕まれたら、アリシアしか… アリシアも守れないよ!」


 武器を持つ右腕を掴まれては、刀を抜くことも出来ないため紫音がそう反論すると今度は左腕を掴まれてしまい誰かと思って、そちらを向くと視界にとんがり帽子が映る。


 帽子の持ち主はミリアで、彼女は不安そうな表情で左腕を掴んでおり、


「ミリアちゃん、どうしたの? 怖いの? ええんやで お姉さんに甘えたらええんやで」


 そんな彼女を見た紫音は、庇護欲を爆発させてアリシアとは打って変わって甘やかす。


「シオン様!? わたくしへの態度と違いますよ!?」

「だって、ミリアちゃんは守ってあげないといけないの!」


 当然アリシアはその態度の差に抗議するが、それに対して紫音は逆ギレ気味で反論する。


「ちょっと、アナタ達! 戦場なのに、緊迫感なさすぎでしょうが!!」


 だが、すぐにソフィーから三人に対して、叱責を込めたツッコミを受ける。


(私が必死にヒュドラと戦っている側で、この百合共は…)


 そして、近くでエメトロッドを掲げて、頻繁にズゴーレムに命令を出しているアキはその会話を聞きながら、心の中で少しイラッとしていた。


 そして、そのやり取りを戦闘しながらチラチラと見ているレイチェルは、


(あの二人、今日は朝から馬車の中でもキャッキャウフフ、今もキャッキャウフフだな… しかし、一体どんな会話をしているのだろうか… 馬車の中の会話も聞こえなかったし……       気になる!!)


 副官キューバとの戦闘中に、そのような余計な雑念は致命的であり、彼女は一瞬の隙をつかれ振り下ろしたゲイパラシュを盾で受け流されて体勢を崩してしまう。


「しまった!?」


 体勢を崩したレイチェルは、地面に刺さったゲイパラシュを慌てて地面から抜くが、キューバの剣は既に彼女の頭に振り降ろされていた。


 だが、その剣を持った腕にリディアの放ったハイオーラアローが命中して、振り下ろしたキューバの腕を上に跳ね上げる。


 そして、キューバがすぐさまもう一度剣をレイチェルに振り下ろした時には、彼女はオーラステップでその場から逃げておりキューバの剣は空を切った。


「どうしたの、レイチェル? いつものアナタらしくないわよ!?」


 リディアは、レイチェルへの援護でキューバにハイオーラアローを放ち、追撃を阻止しながら珍しくミスをした彼女にそう苦言を呈する。


「リディア、すまない……」


 レイチェルはゲイパラシュを構えると、キューバとの距離をジリジリと詰め始める。


 だが―


(なっ!? 今度はミリアちゃんまで、キャッキャウフフに参加している! 更にソフィー君まで!? 4人の事が気になって仕方がない! 早くコイツを倒して、あの百合の花園を堪能したい! こうなれば…)


 紫音とアリシア、更にミリアとソフィーが加わった光景を見たレイチェルは、もう気が気でならず、遂にアレを使うことを独断で決めてしまう。


「女神の祝福を我に与え給え(そして、私に早くキャッキャウフフを楽しませてください)!!」


「レイチェル、アナタ何を考えているの!? 勝手に女神武器の特殊能力を発動させるなんて!」


 女神武器の特殊能力発動は、基本ユーウェインが戦況を見て発動の指示を出すため、援護していたリディアは、レイチェルが勝手に発動させたのを見て驚きの声を上げる。


「戦場においては臨機応変! コイツは、特殊能力を使わなければ勝てない強敵だと判断した!」


 レイチェルはそれらしいことを言って、特殊能力発動を正当化した。


 彼女の言う通りキューバは強敵ではあるが、時間をかければ彼女とリディアの二人なら勝利できたであろう、つまりは詭弁である。


(まあ、この副官を早く倒して、残りの副官を倒しに行くのも一つの手ではあるわね…)


 リディアは、この副官を素早く倒して、別の副官と戦っている者への援軍に向かい、その副官を倒すのを繰り返して、数的有利を作り出すのもアリだと考える。


「そうね。コイツを早く倒して、残りの副官戦の援軍に行きましょう!」

「えっ!?」


 レイチェルが、リディアの意見に寝耳に水といった顔で思わず声を上げ、


「えっ!?」


 その反応を見たリディアも思わず「違うの?!」と言った感じで聞き返してしまう。


 暫く沈黙が続いた後、リディアが妹にそっくりなジト目になって口を開く。


「アナタ… まさか… 別の理由で…」


「もっ、もちろん、そのつもりだ! 私が驚いたのは、…次は副官ではなく四天王を相手にと思っていたからだ!」


 レイチェルは咄嗟にそう言い返したが、もちろん嘘である。


 彼女の目的は前述通り早くキューバを倒して、キャッキャウフフを近くで見るためであり、四天王を相手取るつもりなど毛頭ない。


「流石は、レイチェルね。でも、四天王は隊長たちに任せて、私達は苦戦している副官を倒しに行きましょう」


 リディアの言う通り、残りの副官を相手にしているアーネスト・スティールとロジャー・バロウズは少し苦戦しており、彼女の判断は正しいであろう。


「そうか…。なら、副官の援軍だな。だが、そのためには、まずはコイツを倒すぞ!」

「そうね!」


 こうして、二人はそれぞれの思惑を抱えながら、副官キューバの撃破を目指す。

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