281話 それぞれの夜 その2
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その頃、紫音達は―
「今夜は二人だけですね…」
「ミレーヌ様もいるよ」
紫音は、自分の部屋に枕を持ってやってきたアリシアの言葉を即否定するが、彼女は御構い無しに話を続ける。
「わたくしこう見えて怖がりでして… 人気の少なくなったこの屋敷で、一人で眠るのは怖くて… それで、シオン様と一緒に眠りたいのですが…」
「それなら、それこそミレーヌ様の方が頼りになるから、お願いしたほうがいいよ…」
「わたくしはシオン様と一緒に眠りたいのです!」
紫音は少し考えると今迄では、予想できない意外な答えを返す。
「いいよ、アリシア」
「えっ!? いいのですか!?」
アリシアは、いつもあんなに嫌がるのに紫音がやけに素直に受け入れた事に、驚いていたが部屋に招き入れられて本当に一緒に眠ることになって更に驚く。
その頃、ミリアは―
ミリアは困っていた。
いつもなら、テントで一緒に寝るのは頼れるシオンか親友リズであるが、今回シオンはおらず今日のその親友は(不味いご飯を食べさせ、説教してきて、更に明日お見舞いしてくる)敵である。
そうなると次に一番長く一緒にいるエレナであるが、彼女は
「今夜は寝かせないぜ?!」
「先生… 今夜も熱くなりそうですね!」
「いや、明日本拠点攻略なんだから、それに備えて夜更しせずに寝なさいよ!!」
腐女子談義でオール(徹夜)しようとして、年下のソフィーに突っ込まれていた。
そうなると、ミリアが頼れるのは一人となる。
頼れるしっかり者ソフィーは、年上にツッコミを入れた所で服の裾引っ張られ、誰かと思って振り向き視線を少し下げる。すると、そこには自分の服の裾を掴む不安で目を少し潤ませたミリアが、上目遣いでこのようなお願いをしてくきた。
「ソフィーお姉さん… 私と… 今日一緒に… 寝てくれませんか?」
「!!!!」
(なっ、何この庇護欲を掻き立てる可愛い生き物は!? シオン先輩とミレーヌ様が、ミリアを甘やかし倒すのが解るわ!)
ソフィーは目の前の可愛いミリアに心をキュンキュンさせて、抱きしめてこのままテントにお持ち帰りしようとするが、あくまでツンデレキャラを守ってこう答える。
「シオン先輩がいなくて不安だからって、そんな顔するんじゃないわよ! アナタも冒険者でしょう? もう、しょうがないわね! 今日だけは特別よ!」
ソフィーはそう言い終わるとミリアとテントに入って行き、それを見ていたリズは前から気になっていた二人のお姉さんにこのような提案をしてみる。
「では、私はアフラお姉さん、ノエミお姉さんと一緒のテントにするッス。アフラお姉さんは同じバナナ好きとして、ノエミお姉さんとは同じ弓使いの寡黙で冷静なジト目、髪の色も銀と白とキャラが被っているから、前から少しお話してみたかったッス」
「いいよ~、一緒に寝よう!」
「(コクッ)」
リズの提案にアフラは元気に、ノエミは黙って頷いて承諾する。
「被っているのは、弓使いとジト目と髪の色だけでしょうが!!」
そして、ソフィーがわざわざテントから首だけをだしてそう突っ込む。
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「はっ!? 今ソフィーちゃんが私のミリアちゃんの好感度を稼いで、頼れるお姉さんポジションを私から泥棒猫のように奪おうとしている気がする!!」
「シオン様、突然どうしたのですか!?」
明かりの消えた紫音の部屋で、背中合わせでベッドに横たわっている状態で、突然そんな事を言い始めた紫音にアリシアは驚きの声をあげる。
最初は面と向かっていたが、お互いの顔を間近で見ていると二人共、何故か気恥ずかしくなってしまい背中を向けてしまった。
「あの… シオン様… 」
「不安なんでしょう? 明日の戦いが… 」
アリシアが問いかける前に、紫音は今回のアリシアが自分と一緒にいたかった本当の理由を口にする。
「わかりますか… わたくし、正直怖いのです… 冒険者学校では、実践訓練も数多くこなして自信を持っていたのに、この前の要塞防衛戦では、要塞の城壁にいても怖くて… 」
紫音にはアリシアの不安な気持ちが痛いほど解っていた。
何故なら、自分もそうであったからであり、だからこそ不安な彼女と一緒にいてあげようと思ったのであった。
「仕方ないよ。私だって、初めての実戦は怖かったから。エレナさんがPTに誘ってくれなければ、踏ん切りがつかずに後一ヶ月は実戦に出なかったと思う…。エレナさんには感謝しているよ」
紫音の言う通りあの時、エレナが誘ってくれなければ、ヘタレの紫音は実戦を先延ばしにしていたはずで、何よりスギハラと戦うことも無かったであろう。
(まあ、恥ずかしい思いはしてしまったが)
そうなれば、その後のミレーヌからの依頼も無く(※ミレーヌは、スギハラを倒した事で依頼を決めているため)、ミリア、リズとも出会わず、ソフィーやクリスとの関係も今とは違ったものになっていたであろう。
※ユーウェインの紹介で、スギハラ達とは出会っていたと思われるが、今のような関係ではなく同じ冒険者仲間という関係で終わっていたかもしれない。
「そうなのですか… 」
(アキさんと違って、エレナさんは警戒しなくてもいいと思っていましたが、よく考えたらわたくしよりもシオン様と一緒にいる時間の長い人でした… これからは、気をつけないと…)
「シオン様が一緒に寝てくださるのは、わたくしが不安でいることを気付いてくださったからなのですね」
「それもあるけど… それにソフィーちゃんがアキちゃんの護衛をしてくれているから、私がその代わりにアリシアを護衛しないといけないしね」
「どうして、アキさんの名前が出てくるのですか?」
「え!?」
背後にいるアリシアの雰囲気が急に変わり、闇のオーラみたいなものを感じる。
(この嫌な感じ… 以前に夢で見た闇落ちアリシアに似ている…)
紫音が慌てて振り返るとそこには起き上がって、紫音の方に振り向いて座り、目が据わった状態で自分を見つめているアリシアの姿があった。
(はぅ!? 怖い!!!)
「シオン様、今はわたくしの事でお話をしているのに、アキさん(他のライバルの女)の話をしないでください…」
アリシアの表情は曇っており、声を荒げずに低い声でそう言ってくる所が、逆に怖さを感じる。
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