240話 その名はBL不敗!




 紫音が四つん這いの状態で、消耗したオーラを回復させるために、先程と同じようにアキに気付かれないようにオーラ回復薬を隠し飲む。彼女が1つ目の薬を飲み干し、2つ目を半分まで飲んだ時、アキが紫音にこのような事を言ってくる。


「紫音ちゃん。私が回復していることに、気付いていないと思ったのかな? やれ,

 やおいのおろち!」


 アキの攻撃命令を受けた<やおいのおろち>は、海老反り状態から回復する紫音に尻尾による攻撃を繰り出す。


「うわぁ!」


 頭上から振り下ろされた尻尾の攻撃を、体に力が入るまでオーラを回復させた紫音は、何とか回避するが飲んでいたオーラ回復薬を落としてしまう。


「紫音ちゃんの考えることなんて、私には手に取る様にわかるよ! さっきだって、紫音ちゃんに女神武器の特殊能力を使わせるために、わざと回復するのを見逃してあげたんだよ!」


 アキは、先程の回復薬を飲んで回復していたことも気付いていたが、わざと見逃していた。


「どうして、そんな事を!?」

「そんなこともわからないから、紫音ちゃんはヒンヌーだって言うんだよ!!」


 紫音の疑問にアキは、その目的を話す前に紫音を煽っておく。


「ヒンヌーは関係ないよね!?」


 紫音の苛立ちのこもったツッコミを、聞いたアキは今度こそ目的を話し始める。


「頼りの女神武器を使わせて、それが通用しないと知った時に絶望を与えるためだよ。正直、凹んでいるでしょう? 絶望しているでしょう? ヘタレの紫音ちゃん?」


 彼女の言う通り、紫音は今の特殊能力発動で倒せず、オーラも回復しきっていない状況に心が折れかけている。


 アキが最初から紫音を煽るようにわざと意地悪な言い方をしているのは、彼女から冷静さを失わせて【無念無想】に至るのを邪魔するためである。


 紫音はそのアキの目論見通りに、彼女の意地悪な態度やヒンヌー煽り、そして、今の状況に心を大きく乱して、【無念無想】とは間逆な精神状態にあった。


「はぁ…、はぁ…」


「フフフ…。紫音ちゃん、いい加減諦めて、私のメイドになりなよ? 満身創痍でオーラも少なく、攻撃も通じない。マオちゃんにも見捨てられて、紫音ちゃんにはもう勝ち目はないよ?」


 紫音は、呼吸を整えるとアキに向かって、最後の気力を振り絞ってこう叫ぶ!


「メイドになんかならない! 私は魔王を倒す者になるんだから!」


 その紫音の宣言を聞いたアキは、ため息を付きながら次のようなことを言ってくる。


「私も哀れな女だよ…。あんなに親身になってあげた親友に、こうもメイドになることを拒まれるなんてね! だったら、もう紫音ちゃんはいいよ! その代わりに、ミリアちゃんやリズちゃんを猫耳メイドにするから!」


 彼女はそう言うと、<やおいのおろち>に紫音への攻撃命令を出す。


「二人にそんな事はさせない!」


 彼女の欲望を阻止する発言をした紫音であったが、<やおいのおろち>の尻尾の連続攻撃の前に回避するのがやっとであった。


「紫音ちゃん、さっきの威勢のいい言葉はどうしたの? このままだとミリアちゃんとリズちゃんは、私の猫耳メイドだよ? ご奉仕だよ? フフフ…、今から楽しみだよ。可愛い子猫メイドちゃん達に、お仕置きという名のセクハラを…、じゅるり、おっといけない…」

 会話の途中からアキは、いやらしい手つきをしながら、妄想に夢中になって欲望を垂れ流す。

 アキが可愛い年下ちゃん二人に、セクハラする気だと知った紫音は怒りが頂点に達して、親友にこう言い放つ。


「アキちゃん!! 私は二人にそんな酷いことをするアキちゃんを、もう親友とも幼馴染とも思わないよ!!」


「だったら、私を斃して止めてみせなよ! フラット胸!」


 その発言を聞いたアキは紫音にこう言って、さらに煽って彼女の怒りの炎に油を注ぐ。


「アキちゃぁぁぁん!!」


 紫音は怒りに任せて、アキに“蒼覇翔烈波”を放つ!

 アキめがけて勢いよく飛んでいったオーラの光波であったが、彼女の前に<やおいのおろち>の尻尾が盾のように立ち塞がり、身代わりとなって主人を守る。


「甘いね、紫音ちゃん! そんな攻撃通じるわけがないじゃない! 私の渾名を忘れたのかな?! 未だ、同人即売会(BL漫画)で負け(売れ残り)を知らぬは、BL不敗なんだよ!」


 アキはドヤ顔でそう言った後に、どこかの流派の拳法のポーズを取る。


「今まで、聞いたことないよ!? あとその渾名、戦いには何の関係もないよね!?」


 紫音は満身創痍の状態で、頑張って突っ込んだ。

 その頑張って突っ込んだ紫音に、『ツッコミ乙』と言わんばかりに、おろちの尻尾攻撃が襲いかかる。


(やられる!!)


 紫音がそう思って諦めて目をつぶった瞬間、誰かに体を押されその場から吹き飛ばされ、そのあと地面を転がり彼女は尻尾の攻撃から救われる。


「!?」

 地面を少し転がった後に上半身を起こし、自分が先程までいた場所を見ると、そこには紫音を庇っておろちの尻尾と地面に体を半分挟まれて、うつ伏せになって倒れているマオがいた。


「マオちゃん!?」


 紫音が自分を庇って、尻尾の下敷きになっているマオに悲痛な声で呼びかけると、彼女は苦しそうに頭だけ紫音に向けると、息苦しそうにこう話し出す。


「愚か者…め…。あれほど… 【無念無想】に至れと… 忠告したのに…。アキの挑発に乗って…心を乱されおって…」


「私を… 置いていったんじゃなかったの…?」


 紫音は悲愴な面持ちで、彼女に尋ねる。

 マオは苦しそうに、その理由を紫音に説明した。


「オマエを…自重させるためだ…。一人になれば…、冷静さを取り戻し…我の忠告に従って…【無念無想】の心に辿り着き…、無我の境地に達すると…思ったからだ…」


 後悔の顔で紫音は、自分の未熟さ愚かさをマオに謝罪する。


「ごめんなさい、マオちゃん…。私が未熟なばかりに…、馬鹿なばかりに…!」


 紫音が反省の言葉をマオに話すと、アキが見計らったように、こう言って会話に入ってきた。


「紫音ちゃんは、本当にダメなダメな娘だよ! マオちゃんに、命を助けてもらっておきながら、戦いの最中にそんなに隙だらけなんだからね!」


 アキはそう言ってエメトロッドを掲げると、冷酷な笑みを浮かべこう言いながら、おろちに攻撃命令を出す。


「さようなら、紫音ちゃん…」


 ―が、次の瞬間緩んだ顔になって、言葉をこう付け加える。


「そして、こんにちは! 私の可愛い猫耳メイド紫音ちゃん!!」


 アキの攻撃命令を受けた<やおいのおろち>の尻尾が、紫音の頭上に迫る。

 彼女への攻撃のためにおろちの尻尾から開放されたマオが、そのダメージから未だに地面にうつ伏せに倒れながら、まだ苦しそうに紫音にアドバイスを投げかけた。


「シオン…、思い出すのだ…! 【瞑想】で到達した【無念無想】の心を…、そこから到達する【無我の境地】を…、そこで感じた己の中にある【チャクラ】を…!」


「紫音ちゃん、心安らかに死んでね! そして、私の可愛い猫耳メイドに転生して、次回からは『女神のお気に入り猫耳メイド少女、異世界でご奉仕する!』の始まりだよ!!」


 #####


 果たしてアキの言う通り、

 次回から『女神のお気に入り猫耳メイド少女、異世界でご奉仕する!』になるのか?!


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