229話 魔物バトル作者の過去
前回のあらすじ
『魔物バトル』の作者さんは、転生者でアキちゃんが神と崇める素敵なお姉さんだったよ。
おかげでアキちゃんは変にテンションが上って、私にも変な絡み方をしてきたよ。
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「ところで私を転生者だと疑ったのは、やはり『魔物バトル』からですか?」
「はい。この世界のモノにしては、斬新すぎると話題になっていたので」
クリスは詩織の質問にこのように答えた。
この世界の人達は魔物との戦いに注力して、娯楽には力が注がれていない。
故にゲームと呼べるものはトランプやボードゲームしかなく、漫画の技術もレベルが低いので、アキやリーベが売れっ子なのも元の世界の斬新な技法を持ち込んでいるからであった。
詩織は自分が『魔物バトル』を作る事になった説明を始める。
「元の世界で、普通のOLだった私が<この世界でお金を得るには?>と考えて、ゲーム製作者の経験を活かせればと思い作ったのが、『魔物バトル』なのです」
詩織は説明を続けた。
「最初はMMORPG制作の知識を使って、ボードゲームやテーブルトークRPGとも思ったのですが、収集性のあるカードゲームが一番儲かると思ってこれに決めたのです。まあ、カードゲームは本職ではないので、元の世界のモノに比べれば洗練されていないと思いますが、この世界では十分だったみたいで、ありがたいことにかなり売れています」
そして、彼女は【女神の炉】が敷地内にある理由を説明する。
「以前は、女神様にお願いして頂いた【女神の炉】と【女神の印刷機】を、屋敷の裏手にある工場に置いて生産していたのですが、今は大手出版社に生産をお願いしています。このような辺鄙な場所なので、魔石電気は通っていないので【女神の炉】は今も稼働させていますけどね」
【女神の印刷機】は、魔石電気で稼働し1時間で数万枚の印刷速度を誇る現代の印刷機にも劣らない性能を有しており、この機械もフェミニース教会の秘匿設備であり、この世界の印刷所は実質教会管理の施設である。
(女神様にお願いしたら、そんな凄い機械が貰えるんだ…。私は折れた女神武器の代わりも貰えてないのに……)
紫音はフェミニースがクリスやアキ、それにリズにまで女神武器を与えているのに、自分には与えてくれない事に、もしかしてフェミニースが自分の事を嫌っているのではないかと思うと、気分が落ち込んでしまっていた。
天界でその様子を見ていた<世界の監視をいつしているのだ?>と疑問に思うほど、フェミニースの側にいるミトゥースが心配そうに質問する。
「紫音、大丈夫でしょうか? お姉様への信頼が揺らいで、魔王打倒を諦めるなんてことにはならないでしょうか?」
「大丈夫です、私は紫音を信じています。あの子ならきっとこの試練を、乗り越えてくれるはずです」
フェミニースはそうは言ったが少し不安であった。
「シオリ・イガワさん。今日アナタに会いに来たのは他でもありません。私達と一緒に戦ってくれませんか?」
クリスは、彼女に会いに来た理由を話し、共に戦ってくれるようにお願いする。
だが、彼女から帰ってきた答えは、紫音たちの期待に沿うものではなかった。
「ごめんなさい。先程も言いましたが普通のOLだった私には、魔物と戦うのは無理です。心苦しいのですが…」
「いえ、戦いは恐ろしいものです。仕方のないことだと思います」
クリスはそう言って、詩織に気にしないようにと促す。
詩織は女神が自分をこの世界に転生させた理由をこう推察する。
「女神様は、私がこの世界に似たMMORPGを作っていたから、この世界に転生させれば役に立つと思われたのでしょうが…。まあ、そのゲームも大多数のプレイヤーからは不評でしたが…」
詩織の失敗だったという感想を聞いたアキが彼女を擁護する。
「そんな事ないです! 私はあのストーリーは凄く良かったと思います! 特にオーク達の大軍に囲まれた要塞での死闘、救援に駆けつける仲間達の話は最高でした!」
アキの熱い擁護の言葉を聞いた紫音が、そのゲームのことを思い出しこう発言する。
「あの戦いの後に鎧が壊れたとか言って、上半身裸になったイケメンが沢山出ていたけど、女性キャラが一切出ていなかったゲームだよね?」
紫音が再び不用意な発言をすると、アキが再び彼女に噛み付く。
「おい、言葉に気をつけろよ、控えめポニー。アレは激闘の後なのだから鎧が壊れていても、不自然ではなくとても必然な展開なのだよ。それに前にも言ったけど、女性キャラが出てこないのは、男の熱い友情というテーマのシナリオだったから、敢えて女性NPCキャラを出してないだけなのだよ!」
「ありがとう。ヤマカワさんのようなプレイヤーが、多ければ良かったのだけど…」
伊川詩織は乙女ゲーム『俺とお前の学園シリーズ』三作をヒットさせた功績により、所属会社の人気MMORPGの新シナリオからプロデューサーを任されることになった。
彼女はシナリオも自分で担当することにして、当初はその優れたシナリオや多人数参加の要塞防衛戦という新システムで多くのプレイヤーから称賛されていた。
だが彼女は我慢できずにどんどんシナリオを乙女ゲー化させていき、イケメンキャラばかり出すようになる。
それによりプレイヤーの大半を占める男性プレイヤーからは、BLファンタジーと揶揄されてしまい、そして炎上してしまう。
そのため彼女はプロデューサーを降ろされることになり、名誉挽回の為に『俺とお前の学園シリーズ』の4作目『俺とお前の学園パラダイス』を作ることになり、それが元の世界での彼女の遺作になる。
暫く元の世界の事で雑談した後、クリスは帰る時間を考慮して、おいとますることを詩織に告げることにした。
「それでは、私達はそろそろ失礼させてもらいます」
「わざわざ来て頂いたのに、力になれずにごめんなさい」
「いえ、お気になさらずに。今日は忙しいところをありがとうございました。では、私達はこれで」
一同は最後に握手をすると屋敷を出る。
紫音達は、玄関の先まで見送りに来てくれた詩織に馬車に乗る前に頭を下げると、そのまま馬車に乗り込み、見送る詩織を後にして馬車で帰路につく。
帰りの馬車の中で、クリスは今回の面会が特に実りのない結果に終わってしまい残念に思い、紫音は”詩織さん、素敵な女性だったな~”と思っていた。
そして、アキは”サインを貰い忘れた!”と残念がるのであった。
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