211話 心という容器は



 前回のあらすじ

 紫音の女神武器がボッキリ折れて、心もボッキリ折れた。


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 女神武器も折れ、左足も痛くて、更には可愛いヘラジカにまで襲われて、紫音の心は既にボッキリ折れて完全に意気消沈しており、左足を引きずりながらトボトボと歩いている。


「アフラ、シオンを担いでエレナさんの所まで運んで! あのまま放おっていたら、また魔物に襲われるかも知れないわ」


「りょうかーい!」


 それを見たクリスは、アフラに指示を出す。指示を受けたアフラは、トボトボ歩く紫音に近づくと慣れた感じで彼女の腰のあたりに両腕を回して、軽々と持ち上げて肩に担ぐと後方まで運んでいった。


 そして、アフラは後方まで来ると、丁度薬を飲んでMPを回復していたエレナの元に、紫音を肩から下ろす。


「シオンさん、足を怪我したみたいなの。治してあげてー」


 そう言って、また元気に走って前線に戻っていた。


「回復魔法を掛けますね」


 エレナは元気のない紫音を気にしつつ、そう言って紫音の左脹脛に回復魔法を掛け始める。

 回復魔法を掛けながら、エレナは紫音にこう話しかけた。


「こうやって、シオンさんの足に回復魔法を掛けていると、初めて会った時の事を思い出します」


 そのエレナの発言を聞いた紫音は、彼女と初めて会った時のことを思い返す。


(そう言えば、あの時も負傷した足を回復してもらったなぁ…)


「私…、あの頃からあまり成長してないね…。女神武器も折ってしまうし……」


 すっかり気持ちが滅入っている紫音は、思わずそう卑屈な言葉を漏らしてしまう。

 その言葉を聞いたエレナは、すかさずこう言って気落ちしているシオンに励ましの言葉を掛けてくる。


「そんなことないです! シオンさんは、立派に成長していると思います! 今回は巡り合わせが悪かっただけです。それにシオンさんは、今までだって何度失敗しても立ち上がってきたじゃないですか! だから私やリズちゃん、ミリアちゃんと多分ソフィーちゃんも、シオンさんのことを頼りにしています! だから、今回もきっと立ち直れるはずです!」


 エレナはあまり話すのが得意な人物ではないので、その励ましの言葉は上手く纏まっていなかったが、紫音には自分を必死に励まそうとするその気持が十分に伝わってきた。


「ありがとうエレナさん……。私、みんなの期待に答えるためにも頑張るよ!」


 紫音はエレナの手を握って、感謝の言葉を述べる。


「大事な武器を壊され、気落ちするクオンを必死に励ますエレン。クオンは自分の側に、こんなにも自分の事を想ってくれている存在が居ることを知り、その夜エレンを一晩中…」


「アキちゃん! どうして、そんなにすぐに腐った話に変換しようとするの!!」


 アキは魔力回復薬を飲みながら、二人のやり取りを見て妄想していたが、思いの外盛り上がってしまい、つい声に出してしまっていた。

 実はアキは長年の付き合いから、武器の壊れた紫音が心折れて落ち込んでいることがわかっており、心配になって魔力回復を理由にして慰めに来たのだ。


(昔と違って、紫音ちゃんには私以外にも慰めてくれる人ができたんだね…)


 だが、エレナが紫音を慰めているのを見て、親友にそのような仲間が出来たことに、嬉しくもあり少し寂しい気持ちになるが、次の瞬間には、”このシーン、新シリーズに使えるんじゃねぇ?!”となり、今に至る。


「武器が折れて戦えないから、補給物資を置いている陣営に余っている武器がないか聞いてくるよ」


 紫音はエレナに、左足を回復してもらうと立ち上がりそう言って、二人から離れると更に後方に設置されている陣営に向かって走り出す。

 紫音が去った後、アキはエレナにお願いする。


「エレナさん、これからも紫音ちゃんのことよろしくね」

「はい」


 エレナはアキの頼みを快く了承し、その後―


「それよりも先生…。クオンとエレンは、あの後どうなるんですか!?」


 興奮しながら、先程の話の続きを聞いてくる。


「もちろん、その夜受け攻めをリバしながら、激しく―」


 アキがそこまで答えたところで、紫音が走っていった方向から大きな音が聞こえてきた。


「え!? なにっ!?」


 アキとエレナが音のした方向を向くと、紫音の5メートル程先に土煙が立っており、その中に人影がぼんやりと見える。


 その土煙の中から出てきた人影は、エマことサタナエルであった。

 彼女は急いで『魔力吸収宝玉』の回収と『魔物精製魔法陣』の破壊の為の魔王謹製『爆発属性魔法スクロール』をセットすると、本拠点城壁にいるアンネの元にやってくる。


「アンネ、クロエは?」


 アンネと一緒にいるはずのクロエが居ないので、彼女に尋ねた。


「クロエおねえちゃんなら、あそこで戦っているよ~」


 アンネは”鷲の爪“と交戦中のクロエを指差す。

 そこにはクロエが、”鷲の爪“の冒険者を相手にインフェルノを放っている姿と、その周りをエイクが元気に冒険者を跳ね飛ばしながら走り回っている姿が見えた。


「あの子はまったく……」


 エマが言いつけを守らずに戦っているクロエに、呆れと怒りの混じった感情でそう呟く。


「シオンお姉ちゃん元気になったかな~」


 すると、アンネが心配そうにそう呟く。


「どういう事アンネ!?」


 その言葉を聞いたエマは、アンネに詳しく話を聞くことにする。


「え~とね。クロエお姉ちゃんと戦っていたシオンお姉ちゃんの剣が~、折れちゃったの~。それで~、シオンお姉ちゃんは元気がなくなって~、後ろに連れて行かれちゃったの~」


 そのアンネの話を聞いたエマは、次のような結論を導く


(これは彼女を倒す絶好の機会ではないの?! ここで倒せれば、生き返ったとしても彼女のスキルは下がって、戦闘力を下げることができる。そうすれば、次はもっと倒しやすくなって強敵ではなくなり、私達の計画を妨げる存在ではなくなる!!)


 すると、アンネにここで待機していることを告げて、グリフォンに乗って紫音のもとに向かう。そして、陣営に向かっている紫音をグリフォンの上から見つけると、彼女の前に飛び降りて対峙するのであった。


「私の名はサタナエル! シオン・アマカワ、アナタはここで私が倒す!」


 エマは利き手である右手と利き足の右足を前に出して、オン・ガード・ポジションで構える。

 紫音も慌てて右の手で折れていない脇差を抜いて構えようとするが、その前にエマが電光石火の右手のストレートパンチを紫音の顔面目掛けて放つ。


 紫音は<女神の秘眼>をギリギリで発動させ、紙一重で体を斜め後ろへ逸らしながら、バックステップで回避すると、エマは更に高速で連打する。


 エマの高速連打と体捌きは、同じ格闘術を使うアフラやクロエよりも格段に速い。

 彼女の使う格闘術は<疾風迅雷>を理念としており、女神の祝福で身体強化された彼女の動きはまさに<疾風迅雷>のような速さであった。

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