207話 慌てる冥府のわんわん



 前回のあらすじ

 連日深夜までの、漫画作業の手伝いによる睡眠不足が祟って爆睡するエマ。

 昨晩遅くまで、自作の厨ニ赤頭巾を熱く語ったクロエ。

 そして、その話に付き合わされて、夜遅くまで眠れなかったアンネ。

 3人は、案の定寝坊してしまった。


 #####


 クロエはテントに着くと、慌てて二人の体を激しく揺すって目を覚まさせる。


「エマ姉、起きて! アンネも起きて!」

「どうしたの……、クロエ…?」


 体を激しく揺らされたエマは目を覚ますと、エマはまだ夢うつつといった感じのままで、クロエに自分を起こした理由を尋ねてきた。


「大変だよ! 私達すごく寝坊してるよ!! 人間側がもう攻めてきてるよ!」

「えっ!? えっ!? 今何時!!?」


 エマは直様女神の時計で現在時刻を確認すると、時計の針はすでに1時を指している。


「えーと、えーと、取り敢えず、えーと…」


 寝坊したエマがパニックになっている横で、クロエはアンネを起こすために彼女の体を寝袋越しに揺さぶるが、なかなか起きない。


「アンネ起きて!!」


 さらに揺らし続けると、ようやくアンネは目を覚ます。


「うるさいの~。クロエお姉ちゃんのせいで昨日眠れなかったから、アンネはまだ眠いの~!」


 だが、そう言ってアンネは寝袋の中に潜っていく。


「そうだ、取り敢えずテントを片付けよう! そのあとご飯ね」


 クロエがアンネを揺さぶっていると、パニクったエマがテントを片付ける為にクロエとアンネの入った寝袋をテントの外に出して、テントを片付け始めた。


 女神の寝袋は就寝中に魔物に襲われた時の為に、頑丈にできており更に魔物にチャックを開けられないように、中からロックできるようになっている。


 そのため今回のように寝袋の奥に入られると、揺さぶるか顔を出す穴から手を突っ込むしかない。


 とにかく寝袋に籠城したアンネを起こすために、クロエは寝袋の穴に手を突っ込んで中の様子を正に手探りで探ると、その手を何者かに噛まれてしまう。


「痛っ!?」


 クロエが慌てて、手を穴から出すと彼女の手にはフェンリルが噛み付いていた。

 甘噛みなので、さほど痛くはないがクロエはフェンリルを叱りつける。


「こら、フェンリル! 邪魔するんじゃないの!!」


「フェンリル~。アンネのおやすみの邪魔するクロエお姉ちゃんの言うことなんて、聞いちゃだめなの~」


 すると、寝袋の中から、眠そうなアンネの声が聞こえてきた。


「くぅ~ん」


 フェンリルはご主人様の命令と、クロエの命令の板挟みにあってしまって、どうしたらいいか解らずに、クロエに甘噛みしたまま最高に悲しそうな目と声を出して鳴いる。


「アンネがひどい命令するから、フェンリルがすごく悲しそうな顔をしているじゃない」


 そのフェンリルの様子を見て居た堪れなくなったクロエは、噛まれている手とは逆の手で”フェンリルは悪くないよ”とフェンリルの頭を撫でながら、寝袋の中にいるアンネにできるだけ優しい声でそう言う。


「くぅ~ん」


 フェンリルはまた悲しそうに鳴き声をだす。

 その悲しそうな鳴き声を聞いたアンネは寝袋から出てくる。


「ごめんなの、フェンリル~」


 そして、両手を広げて、フェンリルにこっちにおいでとポーズを取ると、フェンリルはクロエの手から離れて、嬉しそうにアンネの胸に飛び込んだ。


 嬉しそうに尻尾を振りながら、自分の胸にいるフェンリルを抱きかかえて頭を撫でているアンネにクロエはこう優しく諭した。


「もう、こんなわがままの為にフェンリルを悲しませたら駄目だよ」

「ごめんなの~」


 その言葉を聞いたアンネは、素直にクロエとフェンリルに謝る。

 そもそも夜中まで厨ニ全開の『赤頭巾 Ver. Cloe』を聞かせて、彼女の睡眠不足を招いた元凶のクロエがまず謝罪するべきなのだが、幼いアンネにはそこまで思い至らなかった。


「テントの片付け済んだわ。次は朝食…もう、お昼だから昼食の準備をしないとね」


 その横で、テントの片付けを終えたエマが、そう言い出したのでクロエはパニックになるエマに冷静になるように突っ込む。


「エマ姉、落ち着いて! まずは、『魔力吸収宝玉』の回収だよ! 昼食は携行食で食べながらの作業で!」


 クロエの突っ込みを聞いたエマは、ようやく冷静を取り戻す。


「そっ、そうだわ! 『魔力吸収宝玉』の回収と『魔物精製魔法陣』の破壊を先にしないと!」


 そして、そう言って、すぐさま城壁に上り外の様子を確認する。


(人間側が想定していたより遥かに多いわね、そのためにかなり押されているわ。このままでは、作業が間に合わないわね……)


「私が『魔力吸収宝玉』の回収をして、『魔物精製魔法陣』にこの魔王様謹製『爆発属性魔法スクロール』を設置するまでオークが持ち堪えられそうになかったら、時間を稼いでちょうだい」


 エマは戻ってくると、クロエとアンネの二人にできるだけ戦闘しないように指示して、『魔物精製魔法陣』に向かって走っていく。

 二人は戦況を確認するために、携行食を食べながら城壁にやってきた。


「さっきよりも、かなり押されているなぁ……」


 クロエが戦況を見て呟くと、どうするか考える。

 エマは危ないから余り戦うなと言ったが、オーク達が全て倒されていざ時間稼ぎでクロエ達が戦わねばならないとなった時には、むしろ彼女達だけという事になって余計不利な戦いになるからだ。


 それなら、オークが残っているうちに一緒に戦うほうが、まだ優位に戦うことができる。


「どうするの? たたかうの~?」


 考え込んでいるクロエに、アンネがどうするのか尋ねると彼女は決断した。


「戦う……。ただし、アンネは危ないからこの城壁から、ぬいぐるみ達に命令するように!」

「わかったの~」


 クロエの注意に、アンネは素直に従う返事をしてから、もう一度質問する。


「クロエお姉ちゃん…。リズお姉ちゃん達とはどうするの?」

「リズちゃんやミリアちゃんは、後衛職だから直接攻撃する事はないから大丈夫だよ」


 アンネの質問にクロエは、こう答えると城壁から飛び降りる。


(問題はシオンお姉さんとソフィーお姉さんだなぁ…。私に来ないといいけど……)


 そう思いながら、地面に着地したクロエは人間達の側面から攻撃するべく走って行く。



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