191話 お姉さんはいい所を見せたい



 前回のあらすじ

 今回も本編で出番のないアリシア・アースライトが担当します。


 シオン様が4人で担当する持ち場にオークが殺到しますが、シオン様の華麗な活躍とその他の皆様の働きによって、迫りくるオーク達を撃退し続けますが投石機による攻撃で、一転して苦戦に追い込まれてしまいます。


 ですが、ミリアちゃんとエドガーさんのお陰でなんとかオーク達を押し戻します。

 果たしてこのまま勝てるでしょうか?


 ######


「ところで、ミレーヌ様。どうしてわたくしのカップは金属製なのですか? これでは、せっかくの紅茶が台無しです」


 アリシアがミレーヌに不満を漏らすと、彼女から答えが返ってくる。


「アリシア様が毎回カップを壊すからですよ」


「アレはシオン様とわたくしの深い絆が、シオン様の危機を知らせているだけで、わたくしが意図して壊しているわけでは……」


 アリシアはカップが壊れたのは、自分と紫音の絆の深さが起こした不可抗力な出来事だと訴えた。


「深い絆か何かは知りませんが、毎回壊されてはカップ代だって馬鹿にならないのです」


 ミレーヌは手をワシワシさせながら、彼女に説明する。


「それは申し訳ありません……」


 カップ代という実害と嫌な感じのするその手の動きを見て、アリシアは謝罪すると金属製のカップを手にとり大人しく紅茶を飲み始めた。


 ######


 今迄の戦闘で兵力の半分を失ったオーク達は、部隊を人間側の攻撃範囲外に後退させ投石機で石とオークを飛ばす作戦に切り替える。

 これにより、オークは狭い堀の縁に侵入せずに人間側の頭上を飛び越え、人類側の後方から攻撃することができた。


 もちろん人間側も弓矢で迎撃し、マジックシールドで防ぐが強い個体にはあまり弓矢は効きづらく、マジックシールドを破壊する個体もいる。そのため後方にどんどんオークが送り込まれ、人間側は挟み撃ちを受けることになった。


 要塞に立て篭もっても、断続的に行われる投石攻撃に魔法使い達の疲労が蓄積して、マジックシールドによる防御が出来なくなってしまう。魔物には疲労の概念はないので、ジリ貧になるのは人間側である。


 よって人類側は今までのように堀の奥で待ち構えているわけにはいかず、投石機破壊に打って出ねばならない。


「打って出るぞ! シオン君、リディア君、投石機破壊は君達に任せる。第一目標は投石機、オークは邪魔なやつだけ撃破でいい」


 スギハラは投石機破壊の為に、打って出ることを皆に伝える。


「あと、アーマーボアがまだ出てきてねぇ。どこで出てくるかわからないから、気をつけろよ!!」


 タイロンが今回まだ出てきていない鎧を纏った巨大猪に対する注意喚起をおこなう。


「みんな、行くぞ!!」

「オーーーー!」


 スギハラの号令に参加者は、声を上げて気合を入れると堀の向こうに投石機を破壊するために打って出る。


 人類側は、投石機で飛ばされてくる石やオークを迎撃させる為に部隊の3分の1を残して、残り3分の2で投石機破壊を目指す。投石機破壊に向かおうとする紫音に、ソフィーが近づいてきて恥ずかしそうにモジモジしながらこう言ってきた。


「わ、わたしー、シオン先輩の、良いところ見てみたいなー。そうしたらー、シオン先輩のこと見直しちゃうかもー」


「わたしも、シオンさんのカッコいい所みたいー!」


 アフラも紫音にそう言ってくる。


「わたしも…見たいです…」


 ノエミはいつもと変わらない感じで呟く。

 アフラ以外は明らかに誰かに言わされている感じで、紫音のやる気を出させる言葉を言ってくる。


「なん…だと…」


 紫音は突然のソフィーのデレ発言と年下ズの言葉に戸惑う。

 実はこれはクリスの差し金で、ソフィー達を使って紫音に発破をかけたのであった。


「よーし、投石機を破壊して、ソフィーちゃん達にお姉さんの良いところ見せちゃうよ~!!」


 そんな事も露知らず、紫音は彼女達が何故か急に自分を慕い出したと思ってやる気になり、そう言いながら意気揚々と堀を越えて投石機破壊に向かう。


 エスリンはスギハラの指示で、できるだけオークの数を減らすために女神武器を発動させる。


「女神の祝福を我に与え給え!」


 彼女は祈りを捧げてからフラガソラスに魔力を込め、特殊能力を発動させた。


「神秘なる女神の力よ、女神に仇なす者共を切り裂け! フラガソラス!」


 エスリンがそう唱えると刀身が5つの光の刃となって、魔物を自動追尾して切り裂くフラガソラスの特殊能力が発動してオーク目掛けて飛んでいく。複数のオーク達をその光の刃で切り裂いて魔石に変えていった。


 人類側は少しずつ戦線を押し上げて、投石機に近づいていく。

 紫音はオークと戦いながら投石機を射程距離に捉えると、女神武器の特殊能力を発動させる。


「女神の祝福を我に与え給え!」


 紫音は左右に持った女神武器にオーラを込めると、武器にはめられた女神の宝玉が輝き出した。すると、特殊能力によって身体能力を大幅にブーストされた紫音は、そのスピードを活かして敵陣に1人で突っ込んでいく。


 高速で移動する紫音に対して、オークは攻撃を仕掛けようと武器を振りあげる。だが、その武器を振り下ろした時点で、高速で移動する彼女は既に後ろに通り抜けており、さらに通り抜けた紫音に斬られてダメージを負う。


 しかし、側を通り抜ける時に、スピードを落とさずに斬りつけているだけなので、あまりダメージは与えられていない。


 紫音はあっという間に投石機が並ぶ側面まで移動すると、左右に持った女神武器に特殊能力でブーストされたオーラを溜めて大技を放つ。


「天衝断…? 翼蒼……? ハイパーオーラバスター!!」


 紫音は、クロエに考えて貰った技名を今度こそ叫ぼうと思ったが、今度も技名が言えなくて旧名を使用した。


 巨大なオーラウェイブが刀から前方に放出され、巨大なビームのようになって軸線上にいた投石機にダメージを与えながら伸びていく。


 手前の投石機を破壊した紫音は、微妙にずれて配置している投石機に巨大なオーラのビームを移動させ、その軸線上に投石機を捉えながら次々と破壊した。


 投石機を全て破壊した紫音は、オーク達が来る前にすぐさま踵を返しまた高速で移動して、味方がいる所まで移動する。


「おお、投石機を1人で全部破壊したぞ!」

「流石は『黒き地平線ブラックホライゾン』だ!!」


 それを見た人類側は、このような歓声を上げて紫音を讃えた。


「紫音君が、やってくれたみたいだな!」


 スギハラも紫音の活躍を称賛する。

 だがクリスは、喜ぶ間も無くすぐさま指示を出す。


「ソフィー! アフラ! ノエミ! シオンのフォロー!!」


 クリスの指示が出る前にソフィーも嫌な予感がして、既に紫音に向かって走り出していた。


「よし、これでソフィーちゃん達に、カッコいい所を見せられたはず…」


 自分の戦果に手応えを感じた紫音が、移動しながらソフィー達に自分の良い所を見せられたと自画自賛した瞬間、全身の力が抜けてその場に前のめりで倒れてしまう。


「え!?」


 紫音は一瞬何が起きたか解らなかったが、すぐさまオーラを使いすぎて全身の力が入らなくなったことに気がついた。


「ソフィーちゃん達に、良いところ見せようとして調子に乗りすぎた!!」


 紫音はオークの真っ只中で、調子に乗って身動きが取れなくなるという最悪の事態に陥った。



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