188話 代理指揮官演説
紫音達は、アキのいる城壁に向かいながらすれ違う冒険者達の数が、いつもより少ないことに気付く。
「それにしても、冒険者の数が少ない気がするけど……」
紫音がその様子を見ながら呟くと、エレナが自分の意見を口にした。
「前回のトロール本拠点戦で、大手クランに少なからず被害が出たみたいです。そのせいでは無いでしょうか?」
その彼女の意見を聞いたソフィーは、自分の考えを述べる。
「元々大手は、ここ1年参加してないわよ。やっぱりカムラードさんが、居ないからじゃないかしら」
この考えは恐らく正解であった。
紫音達がアキの側に来ると、彼女の前には城壁より少し背の低いアイアンゴーレムが立っている。
そのアイアンゴーレムは茶色で、今までのモノより無骨で寸胴なデザインのために鈍重な外見をしているが、その分とても頑丈なイメージを受けた。
指は親指だけ独立して穴が空いており、四指は一体化しておりこちらも穴が2つ空いている。
肩には半球体の盾らしきモノが付いており、紫音はあんな所に付いていて役に立つのだろうかと思った。胸部には、ペリカンの嘴を連想させる黄色のオブジェクトらしきものが付いており、下腹部は前に出っ張っていて穴がいくつか空いている。
「何このデザイン……、今までに比べて随分とずんぐりむっくりなデザインね……」
「きっと、ペリカンさんだよ。嘴みたいなのが付いているし…」
「ペリカンって言うより、タヌキじゃない? 色も茶色いし、きっとそうよ」
「絶対ペリカンだよ、タヌキに嘴は無いしそうだよね、アキちゃん?」
紫音とソフィーがペリカン型かタヌキ型かを、言い争っているとアキはこう答えた。
「どっちも違うよ、フラット姉妹。これのどこがペリカンやタヌキなの? 二人共、観察力が足りないよ。足りないのは、そのフラットな部分だけにしておかないと、戦場だけではなく日常生活でも困ることになるよ」
アキは冷ややかな感じで二人を窘めた。それは自分のデザインをタヌキやペリカン扱いされたからである。
「フラットな部分って、オブラートに包んだつもりだろうけど、十分酷いことを言っているからね!?」
紫音は半泣きで、アキの辛辣な返事にすぐさま突っ込んだ。
「じゃあ、何のよ。このずんぐりむっくりは!?」
先程のアキの返しに、少し怒り気味のソフィーが語気を強めに質問してくる。
「この子は5番目に考えたゴーレムで、“ゴーレム5 伍ータム”だよ。防御力に重きを置いた“びくともしない デカいやつ 頼りになるやつ イカすやつ”なんだよ」
そして、アキがドヤ顔でそう答えた時、最後尾のミリアの後ろから小型の可愛らしいゴーレム4体が、クロスボウボルトの入った箱を持って歩いてきた。
ミリアは、その可愛らしいゴーレムを見て心ときめく。
「この子達を含めて、ゴーレム5なの。この子達は伍ータムの中に入って、あのお腹の穴からクロスボウを撃つ係なの」
アキが命令を出すと、伍ータムのペンギンの嘴のようなオブジェクトが前に倒れて、内部に入る入口が現れる。
アキが城壁からはしごを下ろすと、小型ゴーレム達は、クロスボウボルトの入った箱を持ったまま、はしごを降りて内部にクロスボウボルトを運んでいく。
小型ゴーレム達はこのあと数回運び込んで、大量のクロスボウボルトを積み込み戦いに備える。アキはここ数回の戦いでゴーレムを使役したおかげで、スキルが上がりゴーレムを同時に操作できる数が増えたのであった。
ついにスギハラによる戦いの前の参加者を、鼓舞するための演説がおこなわれる。
「この場にいる、勇敢なる兵士及び有志の冒険者諸君! 共に命をかけて戦うことに感謝する。この戦いには……、えーと、次なんだったかな…。まあ、なんだ…俺は国の為とか人類の未来の為とか、大層な理由で戦えとは言わないし考えたこともない」
スギハラは、ユーウェインの演説を真似ようと思ったが、自分らしくないと思って自分の言葉で演説を続けた。
「俺の…俺達の戦う理由は、周りにいる仲間の為でいいだろう? そいつらと戦いの後に一緒に笑い合うために全力で戦おうぜ! そうすれば、おのずと人類の未来のためになるだろう……。最後に俺もアイツの言葉のこれだけは言っておく、敢えて言うおう”死ぬな”と!」
スギハラの不器用ながらの演説は、参加者の心を掴み雄叫びを上げる。
「オーーーーーーーー!」
これは、彼の演説に心震えたのもあるが、これから行われる死闘に挑むために自らを奮い立たせるモノでもあった。紫音は恥ずかしくて大声を出せなかったが、心の中で仲間の皆のために頑張ろうと改めて思う。
演説を終えたスギハラが、四騎将やクリスが整列している所に来る。
「やっぱアイツはすげーな、こんな演説を毎回やっているんだからな……」
そう親友の凄さを実感する言葉を呟く。
「スギハラさんの演説も良かったですよ」
リディアが彼の演説を褒める。
「演説だけではなく、指揮の方も頼みますよ!」
「ああ、やるだけやってみるさ」
タイロンのこの問いかけにスギハラは、決意に満ちた顔で答えた。
そして、城壁から索敵していた兵士から報告が入る。
「遠方にオーク軍接近を確認! ゆっくりとこちらに進軍してきます!」
その報告と共に要塞内に緊張が走り、空気が一気に張り詰める。
「戦闘準備!!」
スギハラと各部隊の隊長が、部下達に戦闘準備の指示を出す。
遂に紫音にとって、2度目のオーク侵攻軍との戦闘が始まる。
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