154話 黙示録の三獣





 冒険者達は、回復役の待機している後方まで後退してくる。

 総崩れとなって後退してきた為、好機と捉えたケルベロスが追撃してくると思われたが、彼女は追ってこなかった。


 彼女が追撃してこないのを、ユーウェインはこう推測する。


「もしかしたら、最高位魔法3回と噴火の魔法『イラプション』と言ったか……。それらを連発した為に、流石にMPが切れたのかも知れないな……」


「その推測が正しければ、逆劇のチャンスだが……。こっちも満身創痍だからな……」


 スギハラが体力を回復させるために、彼の横で座りながら辺りを見渡してそう言った。

 彼の言う通り人類側には、クロエとまともに戦える者はいない。


 エスリン、エレナをはじめとする回復役は、今も慌ただしく負傷者の治療を行っている。

 そのため、更に後方に後退することも出来ずに、ここで警戒しながら回復するしかなかった


「オマエも座って、楽にしたらどうだ?」

「呑気だな、オマエは。いつあの敵がここまで来るかわからないのに……」

「それなら、尚の事少しでも回復する為に、楽な体勢でいるべきだろう?」


「そうかもしれんが、司令官が地べたに座るなど、部下に対して格好がつかないからな。俺はこのままでいい」


 そう言って、ユーウェインは自分の矜持の為に、立ったままケルベロスの追撃に備える。


「そうかい、司令官は大変だな……」


 スギハラはそれ以上何も言わずに、横で座って同じく追撃に備えることにした。

 だが、二人はこの状態でケルベロスの攻撃を受けたら、恐らく持ち堪えることは出来ないと感じている。


 その頃、当のケルベロスことクロエは、ユーウェインの推測通りMP切れになっていた。

 だが、下手に魔力回復薬を飲んで回復しようとすれば、人間達に今MP切れだと悟られて逆撃を受けるかも知れない、そう思いどうしたものかと考えている。


(回復するなら、一度本拠点に帰ったほうがいいかもしれない……。もしかしたら、真悠子さんが撤収準備を終えているかも知れないし……)


 クロエは撤退しようと思ったが、別の考えが頭に浮かぶ。


(でも、アマカワ・シオンっていうお姉さんが、スピードがかなり速いって真悠子さんが言っていたから、退却中に追いつかれたら不味いかも……)


 クロエも万能ではない為、紫音が追撃できる状態では無い事を知る由もなく、若く経験不足の彼女には判断が下せないでいた。


(これは、ユーウェイン殿の推察どおりにMP切れかもしれんな……。若い故に戦場での駆け引きで、どうでたらいいか判らんのかもしれんな……)


 百戦錬磨のスティールが、そのクロエの様子をつぶさに観察するとスティールは部下を引き連れ少しだけ前進して、クロエに圧力を掛けてみることにする。


「うわっ!? 向こうから来た!!」


 戦闘経験の浅いクロエは、前進してくるスティール達にすぐさま反応してしまい、少し後ろに下ってしまう。


(やはり、MP切れか。それとも、戦闘できない別の理由があるのか。アレ程の実力があるなら、我々が少し前進したぐらいで、あの様な反応はしないはず……)


 スティールが更に前進の指示を出そうとした時、クロエの後ろから灰色の体毛と8本の脚が特徴のかわいいヌイグルミのような馬が駆けてくると、その馬はよく見ると宙に浮いていてその背中には二人乗っている。


「スレイプニル、すと―っぷ」

「ひひーん」


 スレイプニルと呼ばれた馬(?)は、その命令でクロエの後ろに止まると、背中から女性が二人下乗した。


「クロ…、ではなくてケルベロス。また、派手にやったわね」


 そう声を掛けてきたのは、20代前半ぐらいの金髪で頭には龍の頭をモチーフにした髪飾りをつけている。赤い拳法着を着て、肩当て、篭手、脛当てにはそれぞれ龍の頭が描かれていた。


「おまたせなのー」


 次にクロエに話し掛けたのは、11歳ぐらいのプラチナブロンドの幼い少女で、白い冬毛のオコジョの耳がついたフード付きのコートを身に着けている。そして、肩から女神の鞄(大)を掛け、その鞄からはヘビとヘラジカ・シロクマのヌイグルミが顔を出しており、手には大事そうに、口を紐で縛られた狼のヌイグルミを抱えていた。


 これらヌイグルミは、全て彼女の魔力で動く『自動ヌイグルミ』ともいうべきもので、彼女が魔力を込めると大きくなり戦闘に参加する。スレイプニルも彼女の所有する自動ヌイグルミの一つであった。


「遅いよ、二人と…」


 クロエはそこまで言いかけると、


「遅かったな、我が魂の盟友達よ! 貴様達があまりにも遅いので、暇つぶしに人間達と少し戯れてやっていたのだ!」


 厨ニポーズを取って、言い直した。


「ああ、そう。その割には結構消耗して辛そうじゃない」

「そっ、そんな事ないよ! …まだまだ、我が闇の力は深淵の如く深く―」


 図星を突かれたクロエは、赤い拳法着の女性に対して赤い拳法着の女性は、クロエの長くなりそうな厨ニトークを遮る。


「はいはい、わかったわ。それよりも、人間達に私達も自己紹介しておきましょうか」


 そして、そう言って紫音達の方に向かい自己紹介を始めた。


「私は『火のように赤い大きな竜』サタナエル、以後お見知りおきを。そして、この娘は……」


「『冷獄の支配者』ヘルだよぉ~、よろしくねぇ~」

「そして、私が『冥府の番犬』ケルベロス!」


 そして、三人は声を揃えてこう名乗る!


 三人「我ら魔王様直属の…」


 ケルベロス「煉獄の三獣士!!」

 サタナエル「黙示録の三獣!」

 ヘル   「仲良し三義姉妹~!」


 三人「えっ!?」


 人間「…………」


 魔王直属の三人? 三匹? の足並みはバラバラだった……



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