148話 トロールの王攻略開始





 魔王の策で冒険者達の半分が、グリフォンを追いかけて行ってしまった。


「隊長、あのまま行かせてしまっていいのですか?」


「いいわけはないが、エベレストと対峙している今の我々に説得している時間はない。残っているメンバーでやるしかない!」


 このリディアの問いにユーウェインはそう答えると、エベレストの注意を引きに向かう。

 ユーウェインがエベレストの注意を引いていた頃、紫音達はエベレストをどうやって倒すかを話し合っていた。


「まずは、あのモーニングスターなんとかしないとだけど……」


 アキのこの言葉にソフィーが聞き返す。


「何か考えがあるの?」


 彼女の問いにアキはこう答える。


「あるけど、紫音ちゃんとソフィーちゃんの二人次第かな……」

「どんな考えなの?」


 紫音がアキの考えを聞くと、彼女は自分の考えを話し始めた。


「紫音ちゃんが遠距離からハイパーオーラバスターを撃って、エベレストにダメージを与えて注意を引くの。そうすると、当然遠くにいる紫音ちゃんにモーニングスターを投擲してくるよね。それを紫音ちゃんが回避して、そのモーニングスターの鎖をソフィーちゃんのミトゥデルードの特殊能力の高周波ブレードで切断する。作戦としてはいたって簡単だよ」


「作戦は簡単かもしれないけど、私の危険度はMAXだよね?! そういう危険なのは、私はするべきではないと思うよ……」


 腐女子作家の作戦を聞いたヒンヌ―ポニーは、速攻で作戦にケチを付け始める。


「確かに危険だよ……。でもね、紫音ちゃん。この危険な作戦をする姿を見た年下ちゃん達はきっと、“紫音お姉さん、ステキ!!”ってなると思うよ、うん」


 そう言ったあとにアキは、隣に立っているソフィーの腕を肘でついて賛同するように促す。


「そっ、そうね…。ステキってなるわね……」


 アキに促されるままソフィーは調子を合わせた。


「すっ、ステキだと思います!」


 いつの間にか側に来ていたミリアもそう答えた。


「何か知らないけど、すてきだよー!」


 更にいつの間にか側に来ていたアフラも調子を合わせた。


「よーし、お姉さん頑張っちゃうぞ!」


 年下三人の言葉を聞いた紫音はやる気MAXになって、攻撃するために離れた場所に移動する。


「さすがは幼馴染みだけあって、扱いに慣れているわね」


「私はただ紫音ちゃんの背中を押しただけだよ。たぶん、私が何も言わなくても少し考えた後に”やる”って言ったと思うよ。ただし今回は時間がないから、私が強引に背中を押しただけだよ」


 アキは無駄な時間をかければ、その分今注意を引いているユーウェインが消耗すると考えたからであった。


「じゃあ、私も鎖を攻撃できる位置に行くわ」


 アキにそう言って、移動しようとするとソフィーを彼女は呼び止める。


「ちょっと待って、ソフィーちゃん。これを持っていって」


 アキはソフィーに予備のサングラスと耳栓を手渡す。


「鎖を斬るときに使って。たぶん、鉄を切るときに激しい火花と音が出ると思うから。」

「ありがとう、貰っておくわ」


 ソフィーはそれらを受け取ると、さっそく装着して持ち場に移動する。


「私はどうしたらいい? あと一回ミトゥトレットインパクトを打てるよ?」


「アフラちゃんは、今は待機かな。その一発はエベレストが武器を失ってから始まる一斉攻撃の時に出番だよ」


「りょうかーい!」


 アフラの元気のいい返事が返ってきた。


「あの……、私はどうすれば……?」

「ミリアちゃんの出番も一斉攻撃の時だよ」

「わかりました……」


(たぶん、カムラードさんも、そう考えているに違いない)


 アキはそう考えながら、まずは紫音達の作戦がうまくいくことを祈る。

“クリムゾン”の数人の団員達が団長であるアーネスト・スティールに、自分達もグリフォンを追いかけようと進言してきた。


「我々も追いかけましょう。でないと、下手したら宝を全て他の者達に奪われますよ!」


「そうだな……。だが今ここを離れるわけにはいかない。あのトロールを倒すのに、専念すべきだ」


「あれの相手は”月影”や騎士団にさせておけば……」


 部下の進言に対してスティールは、エベレストに仕掛けようとしている紫音達を指差して、諭すように語る。


「お前はあんな若い娘さん達が人類の未来のために、強大なトロールに立ち向かって頑張っているのに、自分は宝を追いかけてこの場から離れるなんて、恥ずかしいとは思わんのか?」


 スティールの説教を受けた団員達は、自分達の考えを恥じて戦線に戻っていった。

 紫音はソフィーが位置についたのを見ると、一度中止していた女神武器の特殊能力を再度発動させる。


(前回よりも、女神の宝玉のオーラが回復している気がする。これなら、まだ特殊能力で十分に戦える!)


「いっけぇぇぇ! ハイパーオーラバスター!!」


 再びエベレストの背後に回ると、紫音は巨大なオーラのビームを放って、ユーウェインに注意を引かれて隙だらけの背中に叩き込んだ。


「グオォォォォォォォ!!」


 背中から攻撃を受けたエベレストは苦痛の声をあげて、巨体を先程よりも揺らして堪らず蹌踉めいた。どうやら、ダメージがかなり蓄積してきているようだ。


 蹌踉めいたエベレストを見たユーウェインは、紫音に注意を促す。


「シオン君か! だが、距離をとって攻撃しても、モーニングスターの投擲を受けるぞ!」


 彼の予測通りエベレストは体勢を立て直すと、紫音に向かってモーニングスターを投擲してきた。


「これを華麗に回避して、年下ちゃん達にかっこいい姿を見せる!!」


 紫音は、放物線を描いて自分に飛んでくるモーニングスターを見つめながら、このような事を考えて少し走ってから前転して回避してやろうと考える。


 そして、少しモーニングスターを引きつけてから、走ってかっこよく前転回避する。

 ―が、前転して起き上がろうとした所を、モーニングスターが地面に衝突した際の衝撃波を受けて、そのまま木の葉のように地面を転がってしまった。


「あ~れ~、目が回る~」


 紫音はそのままかっこ悪く暫く目を回して、地面に倒れたままでいたが、運良く衝突時に起きた砂煙で遠くの年下達には見えなかった。彼女を除いては……


「まったく、何をやっているのよ!!」


 ソフィーはそう言いながらミトゥデルードの特殊能力を発動させて、鎖に近づくとジャンプして、空中で体を大きく横に捻る。


「スピンブレード!」


 そして、回転力を利用して力いっぱいに、二本のブレードで鎖に斬りつけた。

 振動したブレードが鎖に当たると、アキの言う通り激しい火花を散らし”キィィィィィン”と金属を削る音を鳴らしながら鎖を切断していく。


 エベレストはそれに気付いて、鎖を手繰り寄せるが一足早くソフィーが切断を終える。


「このまま攻撃を続けるわ! いけっ! GDSファミリア!」


 ソフィーの命令と共に腰の2つの鞘が鞘口からオーラを噴出させて、エベレストに向かって飛んで行く。


 GDSファミリアを発射させたソフィーは、自身もエベレストに向かって走り出す。

 だが、彼女より先に女神武器の特殊能力発動で、身体強化された紫音が高速で移動してエベレストの近くに到達する。


 その紫音に武器を失ったエベレストは、腕輪に残った切断された鎖を振り下ろす。


「とおぅ!!」


 紫音はこれをリベンジとばかりにまた華麗に前転回避するが、今度は鎖が地面に打ち付けられた時に砕けて飛んだ石が、運悪く軽装鎧で守られていない脇腹の辺りを掠めて、冒険者服を引き裂いて脇腹が露出してしまう。


 もう少しで怪我をしたかもしれないというのに、紫音は安堵の表情を浮かべてこう口にする。


「はぅ、服が!? でも、鎧に当たって傷がつかなくて運がよかったよ。また余計な修理費が掛かってしまうかと思ったよー。よかった、よかった」


 彼女は修理費を気にするあまりに、身を守る鎧の本来の役割を忘れるという本末転倒な思考になってしまっていた。



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