第5章 冒険者の少女、異世界の為に頑張る。
127話 激闘の次の日
トロールとの戦いで女神の武器の特殊能力を二度も使用して、気を失った紫音が目覚めた場所はミレーヌの屋敷の自室であった。
「はぐっ!」
彼女はベッドから体を起こそうとすると、特殊能力の負荷による筋肉痛の痛みが体中を襲う。そのため紫音は体をゆっくり動かして、筋肉痛の痛みを最小限にしながらベッドから起き上がる。
(筋肉痛になっているってことは、少なくともトロール戦から一日は経っているのかな)
紫音はそう思いながら、時計を見ると今の時刻は8時30分であった。
(とりあえず、食堂に向かおう……)
壁に手を付きながらゆっくりと食堂へ向かうと、そこにはすでにミレーヌは行政府に登庁したのかすでに不在で、その場に居たのはフィオナ、エレナ、アキ、ソフィーの4名で、壁をつたいながらやってきた紫音に気づいた一同は、心配そうに彼女に声をかける。
「おはようございます、シオンさん。体の方は……、まだ大丈夫ではないみたいですね。」
「シオンさん、もう大丈夫なんですか?」
「紫音ちゃん、あまり無理しないほうがいいよ」
「シオン・アマカワ、筋肉痛だけなの?! 他はなんともないの?!」
紫音は一同に筋肉痛だけだと説明すると、ひとまず安心する一同。
「昨日、結局一度も目を覚まさないので心配しました」
エレナは紫音のあの後の昨日の様子を説明する。
「だから、比較的余力が残っていた私とアフラで、アナタを運んであげたんだからね。感謝なさい!」
ソフィーはさっそく今回のツンデレノルマを果たす。
「ありがとうね、ソフィーちゃん」
「こっ、今度からは無理しないようにしなさいよね!」
紫音がお礼を言うとソフィーは照れて、紫音から顔を背けてそう言った。
「私は盛大にリバースしちゃって、恥ずかしくてすぐに帰ってきたから、そんな事になっているなんて思わなかったよ」
アキは朝のコーヒーを飲みながら言う。
「ところで、リズちゃんとミリアちゃんの姿が見えないみたいだけど、二人はどうしたの?」
紫音はリズとミリアがこの場に居ないことに気付き、その理由を尋ねるとその質問にエレナが答える。
「リズちゃんは……」
「何が動かなければ、筋肉痛にならないッスか! おねーちゃんの罠にまんまと嵌められたッス……」
リズは自室のベッドの上で、前回と同じで筋肉痛の痛みで悶ながら、姉に恨み節を吐いていた。
「ミリアちゃんは、暗示のせいとはいえ強気に振る舞った行動が恥ずかしくて、暫く外に出たくないって言って部屋から出てこないんです」
「心配したミレーヌが、部屋の外から出てくるように説得しているの。私は言ったのよ? 今はそっとしておいてあげなさいって。お腹が減ったらそのうち出てくるからって」
フィオナが紅茶を飲みながら、そう自分の意見を口にする。
「私も心配なので様子を見てきます」
紫音は最後の”お腹が減ったら”というのはどうかと思ったが、心配なのでミリアの部屋に向かうことにした。
「私も行きます」
エレナは紫音に肩を貸すと、一緒にミリアの部屋まで行く。
ミリアの部屋の前には、部屋の中に声を掛けるミレーヌと登庁の時間になっても来ない上司を迎えに来たエルフィがいた。
「ミリアちゃん! いつまでも部屋でふさぎ込んでないで、出てきておくれ~」
「心配しなくても、そのうち出てきますよ。それより、早く行政府に向かいましょう」
「何だとメガネ! それで出てこなかったらどうするんだ! 私が行政府に行っている間にミリアちゃんが世の中に絶望して、凍らせたヨーグルトの角で頭を叩いて自殺しようとしたらどうしてくれるんだ!!」
エルフィの頭に怒りのアイアンクローをしながら言った。
「あたたたたた! すみません、すみません……」
ミレーヌは強制的に反省させられたエルフィを、アイアンクローから解放すると心配そうに部屋の前に立つ。
そこに紫音達がやってきて、ミレーヌにこう申し出る。
「ミリアちゃんのことは私達に任せて、ミレーヌ様は行政府へ行ってください」
「しかし……」
「このままだと、ミリアちゃんが部屋から出来きても、今度はエルフィさんが心の中に閉じこもっちゃいます」
ミレーヌが紫音にそう言われてエルフィを見ると、彼女は廊下の隅で三角座りをして、膝に額をあて俯いた状態でこう一人呟いていた。
「もうこんな仕事辞めて、今度こそ田舎に帰ろう……。帰って親の薦める人と結婚して幸せな家庭を……」
ミレーヌは部下のそんな姿を見て、やれやれといった表情で話し始める。
「相変わらず打たれ弱いやつだな、エルフィは……。仕方ない、ミリアちゃんの事はシオン君達に任せて、私達は今から行政府に行くぞ!」
「はい、ミレーヌ様!」
その言葉を聞いたエルフィは、元気になってそう嬉しそうに答えた。
(エルフィさん、相変わらず不憫です……)
紫音が二人のやり取りを見てそう思っていると
「シオン君、ミリアちゃんのことは頼んだぞ!」
最後にそう言い残して、ミレーヌはエルフィを連れて行政府に出かけていった。
紫音はさっそく部屋の中のミリアに話しかける。
「ミリアちゃん、お部屋から出てきてお姉さんとお話しよう」
部屋の中からミリアの返事はない、その反応を見て紫音はこう呟く。
「そうだよね……。こんな頼りにならない、駄目なお姉さんの私に相談してもしょうがないよね……」
そして、廊下の隅で三角座りをして落ち込んだ。
「アナタまで落ち込んでどうするのよ!?」
ツッコミは私の仕事だと言わんばかりに突如現れたソフィーは、どんより落ち込んでいる紫音にツッコミを入れる。
「シオンさんは……、駄目なお姉さんじゃ……ないです! 私は……、シオンさんを信頼しています!」
すると、ミリアが部屋から出てきて、落ち込んだ紫音を励ます。
「ありがとう~、ミリアちゃん!」
紫音はミリアが自分にそう言ってくれたので、嬉しくていつものように抱きしめようとする。
「はぐぅ!?」
だが、筋肉痛の痛みに襲われ悶え、それを見たミリアは心配する。
そんなミリアに対して紫音は、痛みを堪えながら優しく語りかけた。
「大丈夫、大丈夫だからミリアちゃん。それより昨日のことは気にすることないよ。それにあの発言に恥じない活躍だったよ」
「でも……、わたし……シオンさんにも……、生意気なことを言ってしまいましたし……」
ミリアはそう言って、紫音に申し訳無さそうにしている。
「私は気にしていないよ。」
「でも……」
「周りが今回のことでミリアに何か言ったら、私が言い返してやるわ! まあ、アナタにはバックにミレーヌ様がいるんだから、そんな奴居ないと思うけどね」
ソフィーはそう言って、ミリアの不安を取り除こうと意見を言ってきた。
「私もそんな人が居たら、言い返してあげるからね!」
「お二人共……、ありがとうございます」
ミリアは自分に親身に接してくれるお姉さん二人にお礼をした。
エレナが手をパンと軽く叩くと、一同にこのような提案をおこなう。
「では、ミリアちゃんそれにシオンさん。朝ご飯にしましょう」
「そういえば、まだ食べてなかったね。行こう、ミリアちゃん」
「はい……」
一同はフィオナとアキの待つ食堂に向かった。
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